2212話 節制の美徳3
「それじゃ~気を取り直して~
そろそろ戦おうか~身体も馴染んできたからね~」
【亞樹ツバタ】はそう言っているが、どうやらアバターの変化に自分自身が慣れるための時間稼ぎをしていたようだ。
まぁ、アバターの大きさや動き方が大きく変わってしまう美徳進化の場合はそのギャップに対応できないと辛いかもしれない。
【極楽ジゴク】はそういう様子は見せないようにしていたが……いや、無理していたのかもな。
だからこそ、美徳進化で姿が様変わりするアバターを使いこなしている時点で強者という認識になる。
ここから樹木の龍と化した【亞樹ツバタ】と戦うわけだが、その認識を変えずに最後まで戦い抜かないといけないわけだ!
「元々油断は全くして無かったけど、さっきまでとは威圧感が違うね。
龍の姿になって【亞樹ツバタ】側の覚悟が変わった感じがするよ」
その通り、気迫からしてさっきまでとは違うな。
もしかすると身体も馴染んできたっていうのは動きに慣れてきたっていう意味とは別に、精神面でも変化があるからその変化が終わったということなのかもしれないなっ!?
流石にこれは予想してなかったが……まさかな……?
「この姿での~力を見せるよ~
【樹木ー葉緑の解】と~【美徳ー節制の降臨】~」
【亞樹ツバタ】は美徳の【生樹技能】と樹木の【生樹技能】を同時に使ってきたが、それによって【亞樹ツバタ】の身体は緑色のオーラに包まれていき大口を開き始めた。
このモーション、見覚えがあるな!?
包丁次元でも何度か見たことがある。
……そう、ブレスの前兆だっ!?
【石動故智】、大技が来るぞ!
耐えられるように、備えろっ!
「了解だよ。
スキル発動、【蛇目宝玉】!」
【石動故智】は俺たちの身体の前に蛇の目を思わせるような巨大な球体型の鉱石を生み出していった。
そういえばこんなスキルもあったっけ?
前に何処かで見た気もするが何話だったかなぁ……?
だが、敵が前方で攻撃準備をしているということもあるのでそれを合わせて、前方からの攻撃に強そうな防御スキルも【石動故智】がチョイスしたのは流石だと思う。
こういうことがあるから、攻撃側としてはモーションが大きかったり遅かったりする攻撃方法は難点になりやすいんだよなぁ……
そして【亞樹ツバタ】から放たれたブレスはまるで常緑の森を思わせるような鮮やかな緑色のもので、だがしかし俺たちを確実に葬り去ろうとするくらいの奔流であった!
ただの息吹ではなく、さっきまで使っていたような葉っぱカッターのような要素も混ざっていて【石動故智】のスキル【蛇目宝玉】で生み出した鉱石が徐々に削られつつ吹き飛ばされつつある。
「予想していたよりも圧力が強いね。
少しでも気を抜けば吹き飛ばされちゃいそうだよ」
【石動故智】をしてそう言わせるほどのものか!?
方向に特化した防御でも押し負けつつあるのってかなりヤバイぞっ!?
あわよくば不意打ちをしようと考えていたが、それよりも俺も防御に加勢しないとまずそうなので何か支援出来るようなスキルでも使っておくか……
スキル発動!【渦炎炭鳥】!
俺はブレスを相殺するようなイメージで赤色の魔法陣を展開していき、そこから火柱を発生させた!
木とか葉っぱなら炎に弱いはずっ!
これで形成逆転だっ!!
……とか思っていたが、俺の予想に反してこれでもまだ押し負けてしまっている。
こっちはMVPプレイヤー2人がかりで防御してるんだぞ!?
何で押し返せないんだっ!?
「精密さを~上げているからだよ~
ただのブレスじゃ~ないんだよね~」
精密さを?
ブレスに精密さって関係あるのか……??
あったとしても放つ方向くらいにしか思えないんだが……
「いや、【包丁戦士】。
よく見てみるとブレスが【包丁戦士】の【渦炎炭鳥】を最低限だけ受けて、あとはぶつからないようにコッチの【蛇目宝玉】に直撃させてきているんだよ。
ブレスの中でも強弱を緻密につけているんだね」
そんなこと出来るのか!?
だってブレス攻撃って呼吸の延長線上だぞ!?
ひと呼吸の中の範囲で強さを変えたり出来るなんて発想すらなかったんだが……
「体内の触覚を~感じられるから~
息も~調整できるよ~」
くっ、そんなところにVR感度を活かしてきたのか!?
俺の気配察知も大概な使い方だと理解はしているが、こいつもこいつでふざけた使い方をしてきているな……
思いついたとしても実行しようと思わないだろうよ!
劣化天子も他のプレイヤーから似たようなことを思われているということですよ?
もう少し普段から自覚を持ちましょう。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




