2206話 のびのび根っ子
さて、休憩がてらの採掘も終わったことだしそろそろ進むとしようか。
時間制限は刻一刻と迫ってるし、悠長にしていられる時間はあんまり無いからな!
「コッチの用事で時間を取らせてごめんね。
でも、お陰でリフレッシュ出来たよ。
ありがとね」
それは何よりだ。
その分ここからの探索と戦闘には期待してるからな?
バリバリ働いてくれよ~!
「任せてよ。
……と、また分岐点だね。
今度は左側が奥まで続いているよ」
【石動故智】はそう言って左側に歩みを進めようとしていたが、俺は【石動故智】の腕を掴んで引き戻した。
「【包丁戦士】、いったい何を……」
【石動故智】がそう俺に抗議しようとした瞬間、さっきまでいた場所の地面から太い根っ子が突き出てきたのだ!
「この根っ子は……樹木科の」
「そのと~り!
吾の~名前は~」
知ってるぞ!【亞樹ツバタ】だろ!
姿は見えないけどトレントなんだろ?
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】が【名称看破】しました】
【【樹木科】のプレイヤー【亞樹ツバタ】】
【【包丁戦士】「知ってるぞ!【亞樹ツバタ】だろ! 姿は見えないけどトレントなんだろ?」】
【【名称公開】により知名度に応じたステータス低下効果付与】
「吾の姿を~根しか見ていなくてもその呪術は発動するのか~
これは~吾の作戦が誤っていたのか~」
何か間延びした喋り方で気が抜けるんだが、きっちりデバフを決められたのでヨシとしよう。
とりあえず奇襲は避けられたが、根っ子からもプレイヤーの気配がしたから何とか事前に察知して【石動故智】を回避させられたってわけだ。
何はともあれ、これで奇襲の優位性を一旦イーブンまで引き戻せたぞ!
「その認識は~誤りだよ~
吾の作戦は~ガーデンバトルが始まってから進んでるよ~」
【亞樹ツバタ】はそう指摘すると、俺たちを取り囲むようにして四方八方の地面から根っ子を複数突き出してきた!
そうか、地面に根を張り巡らせる時間を確保するために複雑な奥行きのあるエリアを活用したってわけか。
さては、防衛側は組む相手が事前に分かっていたな?
……まぁ、エリア準備のためのリソースは共同出資だろうからそうじゃないと困るがな!
「とりあえずこの根っ子を何とかしないとね。
スキル発動、【スマッシュ】」
【石動故智】が根っ子の対処に使ったのはお馴染みのカタカナスキル……【スマッシュ】だ!
それで迫ってきた根っ子をピッケルで叩きつけて弾き返していく!
「強制的にノックバックさせてくる~そのピッケルは厄介だね~
前もそれで~時間稼ぎされたね~」
時間稼ぎされた……?
ってことは【石動故智】が前にこいつと戦ったときは援軍を待ちながらの持久戦をしていたってことか。
「コッチだけだと決定打になる攻撃が無かったからね。
負けはしないと思ってたけど、勝ち切るもの難しいって思ってたから守りに徹していたよ」
なるほどな、それも踏まえての【スマッシュ】防衛戦か。
判断としては悪くないだろう。
だが、今回は俺も横にいるからな!
攻めもきっちりやっていくぞ!
「了解だよ」
……とは言ったものの、この場では根っ子が地面から俺たちを狙ってきているだけで本体と思われる木の姿が見えない。
「きっと何処かに隠れながらコッチたちを狙ってきているんだよ。
トレントアバターだから出来る芸当だよね」
「その認識は~正解~
でも~それが分かっても本体の場所が分からないと意味がないよ~」
根っ子だけ攻撃していても致命的なダメージは与えられないからな……
無傷ってことは無いだろうが、微々たるダメージしか与えられないならじり貧で俺たちが負けることになってしまう。
何なら複数の根っ子を同時操作してきているから、俺と【石動故智】という頭数手数というアドバンテージも今のところ活かせてないという現状だ。
とりあえず、俺の包丁が根っ子に通じるか試してみるか……
……切れないことはないか。
何回か【石動故智】の【スマッシュ】と併せてヒットアンドアウェイを繰り返しながら包丁の斬撃を繰り出してみたのだが、太くなっている根元でも頑張れば半分くらいまでは切れた。
そして、根先はそのまま切り落とせたぞ!
思っていたよりも悲観的じゃないな……
【石動ガンジ】相手の時は斬撃が全く通用しなくてスキルに頼るしか無かったからリソースがゴリゴリ削れていってしまって仕方なかったし……
これならわりと戦えるんじゃないか!?
「この場だけ戦うならね。
でも、本体を見つけないとダメだよ。
どうしようかな」
うーん、どうしようかぁ……
早く打開策を考えなさい!
全く、これだから劣化天子は……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】