2205話 【石動故智】と黒い石
「この鉱山のフィールド【Battle Garden 天動戯場 不偽鉱山イスルギ】の先導はコッチに任せてほしいかな。
防御がコッチの方が高いから不意打ちを受けても耐えられるかもしれないし、鉱山の歩き方も自信があるよ」
それはもう願ったり叶ったりだな!
専門家がいるのにわざわざ俺が仕切る必要もないだろう。
鉱石、鉱山について【石動故智】以上に底下箱庭側のプレイヤーで詳しいやつは多分いないだろうし、お前の独壇場だ!
「でも、今回の天昇箱庭側のプレイヤーにはコッチ以上に鉱石、鉱山に詳しい【石動ガンジ】様がいるよ。
コッチが先導することを読まれて逆手に取られるかもしれないのが怖いね」
【石動故智】も怖いと感じることがあるのか。
わりといつも平然としている雰囲気があったから意外だな。
やはり宗家が相手ということで何だかんだ萎縮は多少なりともしているってことだろうな!
そんなことを考えながら歩いていると俺たちは洞穴が2つの方向に分かれている分岐点にたどり着いた。
そこで【石動故智】は俺を手で静止させて呟き始めた。
「この鉱山の掘り方からして……進むのはコッチの方向かな」
【石動故智】はそう言いながら右側の洞穴を指差した。
掘り方で進むべき方が分かるのか?
「正確には掘り方だけじゃないんだけど、石動家の特徴があるからね。
【石動ガンジ】様はきっとエリアを作る時に深くまで関与していたんだと思うよ。
そうじゃないとこの掘り方にはならないからね」
なるほど……?
正直その辺りの違いはさっぱり俺には分からないんだが、専門家から見るとやっぱり違うんだろうな……
ちなみに左側に進んだらどうなるんだ?
「リアルなら別にどうにもならないよ。
行き止まりが早めになるか、予備の待避所みたいな使われ方かな。
保険として掘ってあるわけだよ」
そういうことか……
だがここはリアルじゃなくて仮想現実の世界だ。
あえて行き止まりの方が正解ってパターンはないか?
「正直そこが悩ましいよ。
【包丁戦士】にはさっきも言ったはずだけど、【石動ガンジ】様はどこを逆手に取ってくるか分からないからコッチには奥まで続くミチを選ぶことしか出来ないからね」
なるほど、そういうことか。
「待ち伏せとか挟み撃ちのために行き止まりのルートに隠れられていたらピンチになるかもしれないね。
コッチにはそこは判断できないよ」
【石動故智】はそう言って不安を漏らしていたが、待ち伏せとか挟み撃ちのために行き止まりのルートに隠れられているパターンはそこまで心配しなくてもいいぞ?
俺はプレイヤーキラーだ、プレイヤーに気配には人一倍敏感だからよほど隠れるのが上手いとかじゃなかったり、逸般人とかじゃなければ事前に察知出来るわけだ。
俺と【石動故智】が合わされば時間を無駄にすることなく、不意討ちに備えながら目的地へ最速でたどり着くことが出来るってわけだ!
こう考えたら今回のガーデンバトルにおいてはいい感じの組み合わせだったかもしれないぞ?
俺がそう言うと【石動故智】は少しハッとした表情をした後、俺の手を握ってきて……
「確かにマッピングとかダンジョン攻略みたいな能力で考えると最適解かもしれないね。
コッチには無い力、頼らせてもらうよ」
俺へ頼りすがってきたわけだ。
まぁ、やれるだけやってみようじゃないか!
幸いにも俺の気配察知はモンスター型の天昇箱庭側のプレイヤー相手でも機能するからな……
人型相手にしか通用しなかったらどれだけでも近づかれ放題だが、そうじゃないし何とかなるだろう!
「……あっ、ちょっとだけ採掘していってもいいかな。
底下箱庭には無いような鉱石があるかもしれないからね」
……戦いの意気込みをした次の瞬間にこれか!
まぁ、こういう特殊エリアだからこそ手に入れられるものがあるっていうのは俺も恩恵を受けてるからあまり人のことは言えないが……
というわけで少しだけ休憩がてらに採掘に付き合うことにした。
時間制限がある中でこんなことをしていていいのかと思ってしまうが、きっと止めたら止めたで問題がありそうだし少しくらいは付き合ってやるつもりだ。
それに、【石動故智】の好きなことをやらせておけば【石動ガンジ】相手に萎縮していた心と身体も多少は緩んでくれるかもしれない。
【石動故智】は貴重なMVPプレイヤーという特大戦力なんだから、そのケアをするのも味方の役割と考える必要もあるな!
「あったあった。
これは綺麗じゃないかな」
【石動故智】は一通り満足したようで採掘したうちの一つを軽く研磨して俺の方へと持ってきてくれた。
黒く輝き、まるで宇宙を覗き込んでいるような模様の宝石だな!
「せっかくだから記念に【包丁戦士】へあげるよ。
採掘の間ずっと待っていてくれたからね。
どんな効果があるのかは分からないけど、包丁次元に戻ったらきちんと加工してもらうともっと綺麗になるかもしれないよ」
【石動故智】はそう言いながらこれまで見せたことの無かったように笑顔を振り撒き、俺の手に握らせてきた。
……そういうことならありがたくいただいておこう。
こうやって【石動故智】と触れ合う機会も中々無かったから新鮮な気持ちになるぞ!
ラブコメでもしているんですか?
早く戦いに行ってくださいよ!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】