2200話 存在しない存在するもの
俺、【霧咲朱芽】は【株式会社幽刻修験堂】の本社へと足を運んでいた。
毎度毎度のことだが、特別枠での会社勤めという扱いになっているので普段は出勤せず自由に行動していればいいのだが、召集がかかれば強制的に来なければいけないのだ！
「やあやあ、今日もご苦労様。
この【山伏権現】の召集に応じてくれて嬉しいよ」
俺たちの前に現れたのはゲーム運営プロデューサーの【山伏権現】だ。
山伏のような姿とサラリーマンのような姿をまぜこぜにしたカオスな見た目のやつだ。
基本は山伏衣装なんだが、ネクタイをしていたり、キッチリメガネをキメて、髪は七三分の状態でワックスで固めている。
「……今日は俺だけか？
ここ最近は【源流一刀斎】や【東雲飛鳥】が一緒に召集されることが多かったから意外だな！」
「今回は君の次元で起きたことについて色々とお話させてもらおうかと思ってね。
異常な現象が起きたのは知っているよね？」
異常な現象……世界剣樹か【カニタマ】関係かどちらかだろうな？
だが、世界剣樹は元々システムとして前から組み込まれていてそれを起動させただけだから【山伏権現】がわざわざリアルで俺を召集してまで話すことじゃないはずだ。
ということは……
「【海溝剣アトラ】によって起きた【カニタマ】、海エリア関係か！」
「ご名答。
あれにはこの【山伏権現】も参ったよ。
意図的にボトムダウンオンラインへ持ち込ませた異世界の異能力ならability【現界超技術】という枠組みで制限できていたんだけれどね。
だけど、あの出自不明のプレイヤー……【双真ナル】が持ち込んだ【海溝剣アトラ】は違うんだ。
あれは今もなお、システムとして存在していない」
今もなお！？
システムとして存在していなかったっていうのは【キズマイナ】の発言からして正直予想していたんだが、てっきりチートか何かで無理やりデータとして書き込んで持ち込んだんだと思ってたんだが！？
俺は思わず口の中に溜まっていた唾をのみ込んでしまった。
「それはやばいな……」
「だよね。
存在しないまま存在させている、これは明らかに異質な現象だよ」
【山伏権現】をしても異質と言うなら間違いないだろう。
「このまま変質した【カニタマ】や海を放置しておくのは『面白くない』。
だから君に頼みたいのは【カニタマ】討伐による変質影響力の低下か世界剣樹への干渉による【海溝剣アトラ】の排除のどちらかだね。
もしくは他の解決方法があるのかもしれないけれど、【海溝剣アトラ】がどのように絡みついているのかすら分からないからね。
何せシステム上存在していないのだから。
少しでも存在していれば認識出来るのだけれど」
そうか、存在してないからそういうのも把握できないってことか。
「だが、これを排除するのってそんなに重要なのか？
一応ゲームとしてはアナウンスされているくらいだから進行しているわけだしわざわざ【山伏権現】が出張ってくるほどの案件には思えないんだが……
チート行為を排除したいって名目なのか？」
「いや、底下箱庭計画の妨げになる可能性も秘めているからね。
異物混入した箱庭がどのように歪むのかは分からないけれど、方向性を変えざるを得ない始末になりかねないよ。
潜在意識に働きかけるための箱庭だから、それが歪んでしまうと臨界点を迎えた身体へのフィードバックに異常をきたしてしまう可能性を秘めている。
最悪の場合は異形の姿の人間がこの世界を彷徨く……そんな事態もあり得るとこの【山伏権現】は想定しているからね」
うへぇ！？
そんなことあり得るのか！？
あのキモいザリガニエネミー軍団や変質した【カニタマ】みたいなやつらがリアルで彷徨いていたら気分最悪過ぎるな……
だってあいつら見た目もグロテスクだし、臭いし……
「……それは何としても阻止しないとな！
下手すると俺のトレジャーハントにも影響してきそうだし、面倒事を止められるなら大元から断ちたいからな！」
「それだけ前向きに考えてもらえるなら君を呼んだ甲斐があったというものだね。
これまで進めていた設置作業については補充要員メンバーに一時的に一部任せることにするよ。
これは包丁次元の【プレイヤー】である君にしか任せられないことだからね。
シンギュラリティではない可能性を模索するためにも、ここで活路を拓いておかないと底下箱庭計画や天昇箱庭計画の意義がない。
来るべき時に向けて我々は出来ることをやっていくしかないというわけだね」
……？？？？？
こいつはいったい何が言いたいんだ？？？？？
今は分からなくてもいいよ。
時期が来ればいずれ、ね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】
2200話到達しました！
みなさん、いつも読んでいただきありがとうございます！
