2166話 小さな大金星
「まさか【カイ=フジン】があそこまでさっぱりと殺されるとはなwww
【包丁戦士】にしては珍しく誰の邪魔もせず、引っ掻き回さないアシストをしたから感心してたのに相手が悪すぎたンゴねぇwww
流石にこれは【包丁戦士】を責められないwww 」
【カイ=フジン】が参戦してから速攻でキルされたのを見た【風船飛行士】は唖然としながらも俺に話しかけてきていた。
俺に悪態ばかりついてくる【風船飛行士】でも、今回の俺の対応は最適に近い感じだと認識していたようで、さらにはそれである程度イケると見込んでいたからこそ困っているようだ。
俺と【風船飛行士】の作戦方針とか行動がピッタリ感覚として合うことがあまりないので、珍しくどの視点から見てもほぼ最適解なんだろうがそれでダメだったんだから手の打ちようもない。
「これ以上出せる手札も無いし、そろそろオレも攻めるしかないンゴねぇwww
いつの間にかプレイヤーの数も心許なくなってきてて泣けるンゴwww
死にすぎワロタwww 」
【風船飛行士】に言われて周りを見渡してみたところ、あれだけいたはずのプレイヤーが既に手で数えられるほどまで減ってしまっていた。
【荒野の自由】はかつての【菜刀天子】みたいに派手な広範囲攻撃をそこまで仕掛けてきて無かった気がしたんだが、それでもここまで減らされてしまっているのは驚異でしかない。
それほど最低限のリソースで効率的に捌いてきたってことなんだろう。
だからこそ、いつの間にかこちら側の戦力が減っていたって感覚に陥ったのかもしれない。
一撃で減ってたらそのタイミングで気づいているからな!
「オレは逆にリソースを考えずに攻めないとまずそうだなwww
スキル発動!【覇道竜陣】!」
ここで【風船飛行士】が切り札として切ってきたのは竜人系スキルの【覇道竜陣】だ。
燃費が死ぬほど悪いと定評のあるものだが、その分火力は最上級!
【風船飛行士】を中心として竜炎が発生し、そのまま【荒野の自由】へと襲いかかっていく!
これはかなりいいんじゃないか!?
「ドラゴンブレス……悪くないですがミーに届かせるには足りまセーン!
最低でも【オメガンド】クラス、確実に届かせたいなら【ガルザヴォーク】クラスのものを使いなサーイ!
【機蒸幽解】」
【荒野の自由】はスキル【覇道竜陣】が向かってきている方向に手を翳すと、そこから蒸気を発生させていったようだ。
普通ならあんな蒸気で激しい竜炎を防げるわけもない、そう思ってしまうだろうがこのボトムダウンオンラインではそうは問屋が卸さない。
あの蒸気には秘められた力があり……
「ちょっwww
オレの【覇道竜陣】が変な方向に散らばってるんだがwww
しかも味方にも当たっててワロエナイwww 」
そう、あの蒸気に干渉されてしまったスキルは挙動が急激に怪しくなるのだ!
俺はナノマシンが含まれてるみたいなものだと予想してるが、あれがあるとスキルが暴発したりして味方や自分自身への攻撃として跳ね返ってくることもあるわけだ。
……とはいえ、挙動を怪しくするだけなので一応少しだけ【荒野の自由】に届いていたりはするんだよなぁ。
実はこの戦いが始まってまともに通った攻撃が今の【風船飛行士】の【覇道竜陣】かもしれない。
本当に微々たるものではあるんだがな。
「oh!
少しだけミーにアタックが届いたみたいデース!
これくらいならオートリペアもイージーですが、大したものデース!
全て届かないと思っていたが……最近のプレイヤーも侮れないか」
真面目な口調で【風船飛行士】が【荒野の自由】に攻撃を届かせたことを賞賛していた。
驚いているよりは感慨深いって印象だが、本来ならスキル【機蒸幽解】の蒸気で全部防げるつもりだったんだろう。
そう考えると【風船飛行士】の一撃は【上位権限】レイドボスのAI予測を超えたものっていうことになる!
それはある意味で大金星って言ってもいいかもしれないな!
よかったな!
「嬉しさはあるが、あの程度のダメージで喜ぶのも複雑な気分ンゴねぇwww
全然倒せるレベルのダメージじゃないし、ヤケドくらいだろwww
力不足過ぎて泣けてくるわwww
ヘルプキボンヌwww 」
【風船飛行士】はあんまり嬉しそうではなかった。
いや、確かに戦況には大きく影響するような出来事じゃなかったけどさぁ。
俺だったら一応喜んでいただろうな!
その辺はNPCに対してどんな向き合い方をしているのかで受け取り手の気持ちが変わってくるのも関係しているのかもしれない。
俺はNPCにも自我を認めた上で向き合ってるけど、【風船飛行士】の場合は攻略対象として見てる……とか?
多分だけどな!
そこは強制するようなものではありませんからね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




