2163話 ability談義
「次は私が力を発揮する番かしらね?
私の本領は直接戦闘への参加じゃなくてバッファーなんだからね?」
直前までイチャついていた【虫眼鏡踊子】が少し離れた位置に移動すると、そこで何やら構えを取り始めた。
あの構えは……前にも見たことがある!
そう、それは……
「これが、私だけの助け方よ!
ability全開起動!【抑強扶弱】!」
【虫眼鏡踊子】はチュートリアル武器の虫眼鏡を小道具のように扱い、踊り始めたのだ!
普通なら戦場で踊り始めるなんて非常識だ!
……と言いたくなるところだが、【虫眼鏡踊子】のabilityである【抑強扶弱】は強化したい対象と敵対する対象を選んだ状態で踊ると、踊っている間だけ大幅なバフを与えることが出きるわけだ。
今回対象になったのは俺と【槌鍛冶士】を除いたプレイヤーたちだ。
何故俺と【槌鍛冶士】が省かれたのかというと、ability【抑強扶弱】は敵対してる相手より格下であればあるほど強化幅が大きくなるというものだからだ!
【槌鍛冶士】は【荒野の自由】と同じ格の【上位権限】レイドボスだし、俺はスペックはほとんど上がっていないのだが格としては次元天子、深淵種族、罪魔種族という3つの【上位権限】を身体に取り込んでいるからな……
【荒野の自由】よりも格上として扱われる可能性が高すぎるからだ。
流石自分だけが扱えるabilityということもあって、そういった情報の精査は【虫眼鏡踊子】もお手のものってわけだろう。
「うおっ、これが【虫眼鏡踊子】のabilityのバフか!」
「はじめて受けたけど、力が湧いてくるわ!」
「【虫眼鏡踊子】の姉御ぉ!
最高だぜ~!」
「俺っちも漲ってきたッス」
「漲る力を戦場で発揮する……これが俺の流儀!」
「ヒャッハー!
バフの力で滅却だぁ!」
「モーニングスターもいつもより軽く感じるデス!
ありがたいバフデスね」
【虫眼鏡踊子】のability【抑強扶弱】で力を授かったプレイヤーたちは全身から力が漲っているようで、その力を発揮しようとウズウズしているようだな。
気持ちはめちゃくちゃ分かる。
ステータスが上がってる状態で普段より高いパフォーマンスを発揮できるなら、その力を振り回したいっていうのは大なり小なり人間なら誰でも持ってる感情だしな!
まぁ、俺と【槌鍛冶士】は蚊帳の外なんだが。
「お前は既に【上位権限】を持ってるんだから仕方ないンゴねぇwww
仲間外れにされててワロスwww 」
「ごめんね【包丁戦士】ちゃん。
強化してあげたい気持ちは山々なのよ。
でも、私のability【抑強扶弱】で【包丁戦士】ちゃんを強化できるような相手って中々いないと思うのよ」
そりゃそうだ。
辛うじて可能性がありそうな相手っていうと……反転新緑都市アネイブルの屋上にいた【深淵】という謎の存在とか、【ランゼルート】くらいしか思いつかないぞ。
ルル様相手でも正直厳しいと思うわ。
「そうよね……
でも、制約があって条件もあるから大人数に任意のタイミングでバフをかけられるんだと思うのよ。
私の気質に合っているからこそ、私のabilityとして定着してくれたのかもしれないわね」
だろうな。
abilityはプレイヤーそれぞれの行動に応じたものが定着するように条件付けされてるっぽいしな。
俺の場合はフレンドをキルしまくるみたいなものだったが、【虫眼鏡踊子】の場合はプレイヤーを助けまくったとかそんな感じの条件を満たしたんだろうということは容易に想像できる。
「だいたいそんな感じよ。
【紅蓮砂漠隊】のメンバーとか地蒜生渓谷メドニキャニオンのプレイヤーとかを結構助けてたわ」
やっぱりそうだよな。
自己犠牲からの全体の奉仕っていう感じだもんな……
俺とは正反対の条件だ!
「人間性の差が明確だなwww 」
そう茶化してきた【風船飛行士】だが、お前のabilityの入手条件はどういうものだったんだよ。
「それはオレの忍耐力がモノをいわせたものだなwww
寛容な心が漏れ出た結果ンゴねぇwww 」
【風船飛行士】の寛容な心……?
そんなものが存在したというのか!?
「【銀盃羽化】の意味を調べてみたら分かるだろwww
ggrks www 」
いや、【銀盃羽化】の意味は知ってるが……
それでもお前がその条件を満たしたとは思いたくないんだよなぁ……
「思えないじゃなくて、思いたくないっていうところが【包丁戦士】ちゃんの葛藤を感じるわね……」
劣化天子も私のように寛容な心を見せなさい。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




