2126話 勤勉の美徳7ー芸術は爆発
「【ギアフリィ】だけに集中出来るなら戦いやすいのに、ちょこちょこと【包丁戦士】がちょっかいを出してくるから鬱陶しいわ!
アタシの集中力をかき乱さないで欲しいわ!」
氷を破壊された【紫焼ミルカ】は狼狽していた。
だが、氷を壊されたことそのものよりも俺と【ギアフリィ】の組み合わせについて苦言を呈しているようだ。
相当俺が鬱陶しいんだろうな!
多分、俺単体や【ギアフリィ】単体だったら【紫焼ミルカ】相手に今頃負けてたかもしれないし、それを加味すると目の前の俺たちを未だに処理出来ていないというのは焦りを生むんだろうな。
そして、総合的なダメージ量を考えても今の戦況は俺たちに有利と言ってもいいだろう。
二人いるというアドバンテージで【紫焼ミルカ】を翻弄できているからか、てこずっている割には俺と【ギアフリィ】の被ダメージ量はそこまで大きくない。
対して【紫焼ミルカ】側は体格も大きく的になりやすいのもあってわりとボロボロな様子。
このまま戦闘が終わるなら俺たち二人とも健在なまま他のセクションリーダーの対処に向かえそうだな!
「有利になってきて楽観的なのはオレも気持ちが分かるぜ!
でも、あいつの様子がなんか変だぜ?」
【ギアフリィ】に言われて【紫焼ミルカ】の方を見てみると身体をプルプルと震わせていた。
なんだ?
おこなのかぁ?
「もう許さないわよ!
このまま行くとアタシの役割を果たせなくなるのが目に見えてるのが悔しいわっ!
本当はこのフィールドを縦横無尽に駆け巡りたかったのにこれじゃそんな余裕も無さそうね……
アタシの命は惜しいけど、あの方の威信を汚すようなことはセクションリーダーとしても出来ないし……
そろそろアタシも覚悟をキメるしかないわね!
これが正真正銘最後の攻撃よ!
【美徳ー勤勉の配合】!
さらに【灯火ー戴火の導】!
そして【水流ー蒸化の型】!」
最後の攻撃と断言して臨んできた【紫焼ミルカ】の攻撃だが、まず周囲に水蒸気が立ち込めていった。
これ自体はダメージにならないみたいだが、俺たちの機動力が一気に下がったみたいだ。
……どうやら身体を重くするような作用が含まれた水蒸気なのだろう。
というか、【水流ー蒸化の型】ってことは地味に灯火科以外の【生樹技能】も伸ばしてたってことだな!?
これまでの相手は自分が所属(?)している科の【生樹技能】しか使ってこなかったから意外に思える。
「それよりも【灯火ー戴火の導】ってのがヤバそうだぜ?
【紫焼ミルカ】の身体の炎がとんでもないことになってるぜ!?」
……だな。
【紫焼ミルカ】を中心として熱量が一気に上昇していっているのを感じる。
だが、空を飛んでいる俺たちまで攻撃が届き切るのか?
いや、待てよ……
水蒸気!?
そうか、そういうことか!
【ギアフリィ】、自衛はしっかりしろよ!
スキル発動!【塞百足壁】!
さらにスキル発動!【十二天将前二ー火神朱雀】!
俺は【塞百足壁】で黒い壁を生成して、そこに呪符を貼り付けた!
しれっと暇な時に【タウラノ】の元に行って学んでおいて作れるようになった新たな呪符だ!
これで【燃焼】……つまり火に対して相殺できるので耐性が少し得られるわけだ!
姿の切り替えが出来てないから効果量はかなり減ると思うがそんなことをしてる猶予はない!
壁を強化するのみだ!
「んえっ!?
何焦ってんだよ……
スキル発動!【機蒸幽解】!」
【ギアフリィ】はスキルの挙動を狂わせる機戒種族のスキル【機蒸幽解】を防御のために発動させてきたみたいだが……
おいおいおい、よりによってそのチョイスかよ!?
ろくに説明しなかった俺も悪いがそれは最悪だっぅっっっ!?!?!?
次の瞬間、圧倒的な熱量、光量、爆音が周囲全体に広がっていき……
再び目を開けるとそこにはさっきまでいた森の区画の半分ほどが地面から抉れた状態で広がっていた。
……まるでクレーターだな。
そして俺の身体も太ももより下の両足が消し飛んでいて、翼が無かったら移動するのも難しい状態になっていた。
俺の状態はこんなものだが、あいつらはどうなったのかというと。
【紫焼ミルカ】も【ギアフリィ】も跡形もなく姿が消え去っていったようだ。
さっき起きたのは疑似水蒸気爆発みたいなものだ、厳密には違うとは思うが似たようなものを起こしたのだろう。
それで【灯火ー戴火の導】【水流ー蒸化の型】のシナジーで爆発力を上げてきたってわけか。
最後の一撃で優位を一気にひっくり返されてしまったな……
ここで【ギアフリィ】という強力なユニットを失ったのは手痛いな!
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