2119話 溶かしとかされ
【紫焼ミルカ】が【生樹技能】の【灯火ー業火の導】を発動させたことによって全身から紫色の炎が燃え盛りはじめた。
元々【灯火ー業火の導】を使わなくても炎は出ていたのだが、それが激しくなったわけだ。
あれだけ激しく燃えていると何も通さないほどの防御にもなるし、それで敵にぶつかれば攻撃になるからまさに攻防一体って感じだな!
炎に強い性能をしていているはずのスキル【三叉漁板】で生み出したタライも一瞬で溶かされてしまったから、あれに近づける手段が俺に残されているように思えないんだよなぁ……
「ふふん、どうかしら!
アタシがこのまま圧勝しちゃうわよ!」
くっ、こっちの表情を見て対抗手段がないのを察したな!?
俺は別にポーカーフェイスが得意ってわけじゃないからな……
露骨に顔に出てしまっていたか。
この辺は要特訓だな!
そうやって警戒していると【紫焼ミルカ】がじわりじわりとにじり寄ってきた。
俺に手出しされないと確信しているからなのか、漫然とした動きだな……
走るのが好きなやつの動きとはとても思えないな!
「うっ、うるさいわね!
アタシだって走ってばかりじゃないのよ!」
俺の嫌みに対して【紫焼ミルカ】は妙に焦った様子で反論してきた。
ただ怒っているようにも見えるが、動きから動揺しているのが伝わってきたのでただ怒っているだけではないのだろうよ。
……?
何を焦る必要があるんだ?
今の状況は【紫焼ミルカ】にとって圧倒的優位なはず!
そのまま押し攻めてきてしまえばその優位は確実になるだろうに……
だが、【紫焼ミルカ】はそうせずに自身でただ焦っているし、動きも遅い。
……!
さては、【灯火ー業火の導】という【生樹技能】、出力が滅法強い代わりに何か大きなデメリットを抱えているタイプだな!?
しかも、おそらく動きに制約がかかるか、動く速度が関係しているのかだな!
「なっ、なんのことかしらっ!?
【灯火ー業火の導】にそんなものはないわよ!
言いがかりは止めてほしいわね!」
ほれみたことか!
俺の予想が的中していたのか過剰な反応をしてきているな!
別に俺は人間観察が上手い方ではないと思うんだが、それでも何とか特定できたぞ!
……まぁ、かなり大雑把な予想ではあるけどな。
とはいえ、【紫焼ミルカ】の動揺を誘い出すことが出来たので結果は上々だろう。
正直負け濃厚だと思っていたから打開の糸口が見えただけでもヨシとしよう。
まぁ、移動に制限があるってわかってもそれをどんな風に活用するのかは全く思いつかないけどな!
「あっ、アンタこそ何も対策出来なくて反撃出来てないじゃない!
このままアタシがじわじわ追い詰めていけばいいのは変わってないわよ!」
そう、結局のところは【紫焼ミルカ】が優位なのは変わってない。
俺が打開策を生み出さない限りはな!
というわけで色々と試してみるか!
スキル発動!【儡蜘蛛糸】!
俺は手のひらから蜘蛛糸を噴き出させると、それを【紫焼ミルカ】に向かって飛ばしていった。
だが……
「無駄よ、無駄!
アタシの【灯火ー業火の導】はこんな蜘蛛糸なんてすぐに焼き切っちゃうわよ!」
【紫焼ミルカ】の身体に届くまでに焼けてしまって姿を消していった。
くっ、タライが溶かされたからたぶん無理だとは思っていたがやはりダメか……
それなら次だ!
スキル発動!【想起現像】!
俺は赤色の砂を【紫焼ミルカ】の頭上に生み出してそのまま落下させていった。
「また頭上からっ!?
アンタ、それ本当に好きね?
……って炎を貫通してきてるじゃない!?」
おおっ!?
【想起現像】であの炎を通り抜けられるのか!?
そういえばこの砂は砂漠の砂と似たようなものだったか?
もしかしたら耐熱性能が思っていたよりも高いのかもしれないな!
解決の糸口を少し掴めたかもしれないぞ!
「でっ、でも砂が通り抜けてきたところでどうってことないわよ!
その証拠にダメージも少ししか受けてないわよ!」
そうか……
いや、逆にあれで少しダメージ入ったのか!?
ノーダメージでもおかしくないと思ったんだが……
それならそれでなんとかなるかもしれないぞ!?
おや、何か掴んだようですね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




