2118話 ようてつ
「ちょっとアンタ!
そんなふざけたスキルでアタシの【灯火ー猛火の導】を防いだわけ!?
ありえないんだけど!
それ、タライよね!?」
まぁ、それは俺も同意しておいてやろう。
俺が攻撃する側で、上から落ちてきたタライに攻撃を防がれたなら「ふざけるなよ!?」って言ってたはずだし。
それくらい見た目と性能がマッチしないスキルってわけだな!
もう少し使う側の気持ちに立ってスキルの設定を作って実装してもらいたいものだが、今回は助けられたし複雑な気分だ……
「でっ、でも防いでばかりだったらアタシの負けはないわね!
このままアンタを追い詰めていくわよ!」
そりゃ、俺が防御ばかりしてたらいつか【紫焼ミルカ】の攻撃が通って勝てるだろうよ。
だが、それは俺が攻撃に転じない場合の甘い推測だろ?
この【三叉漁板】は防御だけじゃなくて攻撃にも使えるってところを見せてやるよ!
ほらっ、くらえっ!
俺は再び緑色のトライデントを地面に突き刺し、今度は【紫焼ミルカ】の頭上に出現させた!
【深海顕現権限】を使っているからか、タライの生成場所は多少融通が利くようになっているみたいだ。
お陰で攻撃と防御、どっちにも使えるお得なスキルになったってわけだな!
「うっ、このタライ何処からでも出せるの!?
ふざけた見た目してるのに随分便利な性能じゃないの!
でも、これなら避けられるわ!」
その言葉通り【紫焼ミルカ】はきっちりタライの直撃を避けて見せた。
その辺のプレイヤーなら間に合わずに直撃しているだろう位置関係だったんだが、この辺りは流石セクションリーダーに選ばれているだけあるな。
それに走るのが好きってことだから移動速度が元々速いのもあるか。
だとしても初動が遅れてたら結局は直撃してしまうので、洞察力か、視野か、反射神経がいいんだろうよ。
大人しく当たってくれていたら楽で良かったものを……
手間をかけさせやがって!
だが、これは単発じゃないぞっ!
数を増やしたらどうかな?
そうして俺は再びトライデントを何度も地面に抜き差しし始めた。
すると、【紫焼ミルカ】を追いかけるようにタライがどんどん落下してくる。
その様子はまるでドミノ倒しみたいだな!
……倒してるわけじゃないけどな。
「ちょっとちょっとちょっとちょっとっ!
このタライしつこいのよ!
いつまでアタシについてくるのかしら!
まるでストーカーよ!」
【紫焼ミルカ】はタライのしつこさに苦言を呈しているようだった。
俺とは別の喩えをしているのはちょっと面白いな笑
「他人事だと思って呑気にしちゃって~っ!?
【灯火ー業火の導】っ!」
痺れを切らした【紫焼ミルカ】は新たな【生樹技能】……【灯火ー業火の導】という手札を切ってきた。
すると、身体を纏っていた炎の勢いが増して周囲に立ち込める熱量も上がってきた!
そして、【紫焼ミルカ】は足を止めていた。
そんなことをすれば迫り来るタライを避けられなくなるはずだが……
「もうそのタライは効かないわよっ!」
【紫焼ミルカ】の言うようにタライは当たらなかったのだ!?
おいおい、そんなのアリかよ!?
なんと、【紫焼ミルカ】の纏う炎が落ちてくるタライを一瞬で溶かしてしまっているのだ!
あのタライは炎に対する耐性がかなり高いはずだぞっ!?
それを逆に返り討ちにしてしまうくらい【灯火ー猛火の導】は火力が高いのか!
強すぎるぞ!?
……だが待て、そんな手札があるなら何でギリギリまで使って来なかったんだ?
今まで使ってきていた【生樹技能】の中でも特に強力なように思えるが、出し惜しみする必要があるのか……?
「アタシの【灯火ー業火の導】を見て驚いて口もきけないようになったみたいね!
どうかしら、これで逆転よ!」
くっ、悔しいが一気に戦況を変えられてしまったな……
タライが一瞬で溶けるなら、あれに触れたら俺もひとたまりもないだろうし手を出せなくなってしまった。
厄介すぎるな……っ!?
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




