2116話 爆炎の導
「アンタもすぐには攻めてこないのね?
援軍を待っている……わけでもないみたいだから、アタシと同じく間合いを見ているのかしら」
お互いに攻撃に移行しないので痺れを切らした【紫焼ミルカ】が口を開いてきた。
痺れを切らして攻撃を仕掛けてくるわけじゃなくて、口を開いたのは忍耐強さを感じるな……
疾走感を得ようとしていた行動とかなりギャップがあるんだが、何か裏や事情とかあるんだろうか……?
「趣味嗜好と戦闘はまた別ってことよ!
もちろん戦闘でも思いっきり走れるのが一番なのよね」
裏を探っていたのにあっさり答えてくれたな。
まぁ、これが全部じゃないんだろうが、事実でもあるんだろう。
……っと、ここだな!
俺は会話で一瞬気が緩んだ【紫焼ミルカ】の右首筋を狙い包丁を振り下ろしていった。
腕に若干の火傷を負いながら斬撃を放つのは嫌な気分になるんだが、この絶好の機会……初撃を逃すわけにはいかないからな!
「痛っ!?
ええっ!?
ちょっとアンタいきなり攻撃っ!?
首に切り傷ついちゃったんだけど……」
俺の包丁による斬撃は一応ダメージとしては通ったようで、見た目での傷がついていたり反応からしてもぼちぼち大きめなダメージになったようだな。
これは幸先がいいぞ!
……とはいえ、寸前で身体を少し反らされてしまったので期待していた最大のところである首を落とすところまでは無理だったけどな。
はじめからそこを高望みするのは欲張りかもしれないが、それが一番手っ取り早いんだから仕方ないだろ?
「アンタ、可愛い見た目してるのに物騒な子ね!?
いきなり首狙いなんて遠慮が無さすぎるわよ!」
そりゃ戦いなんだから遠慮なんかするわけないだろ!
何言ってるんだコイツは……
「それなら反撃よっ!
アタシの【生樹技能】をお見舞いしてやるわ!
覚悟しなさい、【灯火ー爆炎の導】」
【紫焼ミルカ】が発動してきたのは【灯火ー爆炎の導】……灯火科が得意とすると思われる【生樹技能】だな。
その【生樹技能】によって【紫焼ミルカ】の身体をから紫色の炎が周囲に撒き散らされはじめたのだ!
そしてその撒き散らされた炎が地面に落ちると爆発していき、周囲に爆音が何度も鳴り響いていく!
うるさっ!?
こんなの近所迷惑にもほどがあるだろ!
「別に近隣住人なんて住んでないんだから気にする必要なんて無いわよ!
……っていうか何で一発も当たらないのよ!?」
確かに【紫焼ミルカ】の放った炎たちは広範囲に向けて放たれていたし、着地後の爆発の規模もそこそこあったからその辺のやつらならどれかに当たって大ダメージを受けていただろうよ。
だが、そこは俺も包丁次元のMVPプレイヤーだからな!
回避にはそこそこ自信があるから、こうやって広範囲に攻撃を撒き散らした狙いが定まってない攻撃くらいならお手のものってわけだ。
「悔しいわね!?
アンタ、それをやろうと思ってやれるプレイヤーが底下箱庭にどれくらいいるのか理解してるのかしら?
少なくとも前に戦った底下箱庭側のプレイヤーたちでそんなことをやってきたプレイヤーはいなかったわよ。
……一応直撃して耐えたり、反撃してきた金属鎧を着たプレイヤーはいたわよ」
それはおそらく【ギアフリィ】のことだろうな。
【ギアフリィ】は【紫焼ミルカ】のことを知っていたし、【紫焼ミルカ】側でも【ギアフリィ】のことを強敵と認識していたんだろう。
だが、【ギアフリィ】は回避して戦うタイプのプレイヤーじゃないから俺と比較しても仕方ない……というより比較するのがナンセンスだな。
まぁ、一回戦っただけで別ゲームのプレイスタイルのことなんて知るもんかって言われたらそうなんだが……
「それなら通常攻撃に切り替えるだけよ!
ほらっ、ほらっ!」
【紫焼ミルカ】は炎の身体で突進したり、爪での攻撃を仕掛けてきた。
一撃一撃を避けるのは可能だが、やはりアバターのスペック差がキツいな……
一撃の攻撃範囲が人型のプレイヤーよりもデカイのと、スピードも速いからな……
【生樹技能】を使ってくるのと違って自分の身体を動かしてくるだけなので隙も生まれにくく俺もやりにくい。
つまり、この状況を一回崩さないと反撃は出来なさそうだな。
参ったぞ……!
諦めるにはまだ早いですよ。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




