2102話 サーバーアタック
「……っとようやくオメーらもこっちに来たっつー話だな!
んだよ、ビビってたのか?」
白黒渦巻きに中々入ってこなかった俺たちのことをそうやって煽ってきたのは【東雲あすか】だ。
表現はアレだが、まぁ、ビビってたに近いことは近いな。
様子を見てたんだって言い換えてもらいたいところだが……
全員巻き込まれてアバターがロストしたら誰がサーバー代わりに行くんだよ!
あれが天昇箱庭側の罠だった可能性もあり得るんだから慎重になるのも当然だろ?
「ぐっ、正論で言い返せねーっつー話だな……
向こうから先にサーバーへ攻撃してきたっつーことは対策してきてる可能性もたけーし」
「……」
そういうことだな!
実際移動こそ無事に出来たが、これが罠の可能性はまだ消えてないし油断せずに行くぞ!
というわけで渦の先を抜けるとそこには一面真っ白の空間が広がっていた。
一定間隔ごとに黒い線が引かれているので距離間隔を失うことは無さそうだが……
異様なほど殺風景だな!?
「……!」
「おう!
底下箱庭では見たことねーような空間だな。
あっちはむしろ気持ちわりーくらい細部まで凝ってたしよ」
あれはきっと【山伏権現】の拘りだろうな。
中々あそこまで拘れるのも難しいだろうけど。
「あれがサーバーか?
キューブみたいなのが真ん中に浮いてるっつー話だな!」
「……」
【東雲あすか】が指差した方向には空中で回転し続けるキューブがあった。
緑色に光輝くキューブはそこから大きな力を感じさせてくるのでこの空間にあるってことはサーバー、もしくはそれに類するものと考えてもいいだろうな。
「ってことはあれをどうにかすればいいっつー話だな!
とりあえず刀で斬ってみるか!」
そう言いながら【東雲あすか】は居合の構えからキューブを一刀両断しようと斬撃を放っていった。
だが……
「おうおうっ!?
どういうことだっつー話だ!
固すぎて切れねーのは予想してたんだが、まさかそもそもキューブに刀が届かねーのは予想してなかったっての!」
「……!」
そう、【東雲あすか】の斬撃はキューブの一メートル前で止まっており何もない空中をそれ以上刀が進むことが出来ていないのだ!
あれは防御が高いとかじゃなくて概念的な何かで守られてるな……
これは俺の包丁でも届かないぞ……
「どうすんだよ。
これじゃサーバー攻撃が成功しねーぞ?」
それを今から考えるしかない。
【山伏権現】によるとこの空間にいられる時間制限もあって、それはもうすぐみたいだからな……
悠長なことはしていられないが、無策のまま攻撃し続けるのも何も生まないだろう。
だが、ヒントが欲しいから【東雲あすか】はそのまま斬撃を繰り返してくれないか?
何か分かるかもしれないし、その間に俺は何かを閃けるように考えてみるわ。
「分かったっつー話だな!
【包丁戦士】、頼むぞ!」
というわけで【東雲あすか】の攻撃を見ているが全部キューブからピッタリ一メートルの位置で止められているな。
どの角度からの攻撃でも同じ距離感で止まるということはそういう能力か権能みたいなものが付与されているんだろうな。
絶対安全を保証しないといけないサーバーに施すならピッタリな力だろう。
「……」
無言剣士は何やら考え込んだ様子で【東雲あすか】の動きを見ていた。
俺と同じように分析しているんだろうか……
そうしてしばらくすると無言剣士がおもむろに刀を取り出して空中で円を描くようにしてゆっくりとなぞり始めた。
すると驚くことに……!?
「あんっ!?
なんで急にキューブが地面に落ちたんだっつー話だ!
源流のおっさんの仕業か!?」
【東雲あすか】が驚いているように空中で浮いていたはずのキューブが急に地面に落下していったのだ!
これには俺も驚愕するしかなかった。
無言剣士にはそんな力があったのか!?
いや、【師匠】をこの世界と引き合わせたのがこいつって言ってたから空間に何かを作用する力……abilityみたいなものを持っているってことなのかもしれない。
それが効くなら……俺もabilityの力を活用して!
サーバーと思われるキューブに包丁を突き刺そうと振り下ろした!
……だが、ギリギリ触れたところで止まってしまい傷をつけるところまでは至れなかった。
くっ、あと少しなのに!
せめて俺の影響だけでも残していくか!
スキル発動!【堕音深笛】!
さらにスキル発動!【深淵龍脈】!
俺は2つのスキルを駆使して包丁の先を媒介にしてキューブへ龍脈を植え付けていく。
「っやべーぞ!
ファイアウォールが起動しやがった!
そろそろ撤退の時間みてーだな!」
というわけで全員で走って渦の中に入っていき底下箱庭へと逃げ帰っていったのだった……
よくやってくれたね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】