2098話 煽りウーマン
「というかわざわざ【東雲飛鳥】を経由してまで俺に接触してきたのはどういう魂胆なんだ?
そこまでして会う価値が俺にあると思えないんだが……」
【跳流麗華】もそうだったが、【天星雲母】にも何か事情があるんだろうか……?
俺がそこを気にしていると【天星雲母】は特に躊躇うことなく俺の問いに答えてくれた。
「あの理不尽な強さを誇る【ランゼルート】に勝ち越せるプレイヤーは【包丁戦士】をおいて他にいませんからね。
人類の至宝とまで称される、聖女である私でさえもそれは同じです。
自身の至らないところがあれば見本を欲しがるのは自然なことでしょう?」
自分で人類の至宝とか言っちゃう辺り相当だよな……
まぁ、事実なんだろうけどよ。
……というか俺に見出だした価値は対最強の対策となることか。
「それなら俺がオンリーワンだろうな。
とはいえ、実際には【ランゼルート】よりも先に死に戻りしたこともあるし相討ちだったこともあるんだけど」
「それでも充分です。
最終的に次元として勝利しているのであればその貢献力はMVPプレイヤーであるあなたのものが大きいと断定してもいいでしょう。
他の次元が勝てていないからこそ断定出来るというものです」
なるほど、そういう理屈か!
実際、俺の立ち回りは独特といえば独特だしな……
「似たようなことを真似しようと思えば出来るんだろうが、俺固有の力の影響もあるからどこかで破綻するぞ?
abilityとか深淵の力とかを寄せるならともかく」
「確かにそこを寄せるのは難しいことですね。
ですが、聖女である私の力を以てすれば近い状況は作り出せることでしょう」
そうだろうな!
いわば文武両道のMVPプレイヤーがお前だし、自分で立ち回りを意識しながら戦況をコントロールするのはお手のものだろう。
俺の場合は別に頭脳役を置いておかないとそこまでは出来ないけど……
「とりあえず【ランゼルート】に自由に動かれないように嫌がらせに徹するのがいいだろうな。
あいつはAIだが、感情はきちんと持っている。
そこがつけ入る隙になるんだよ。
あれだけ兼ね備えている割にはプレイヤーたちの悪意に対する耐性があんまりないっぽいし、煽りを時折入れつつ動くのがいいと思うぞ!
俺もよくやるし」
俺の持論を披露すると【天星雲母】は腕を豊満な胸の前で組み、少し考えに耽り始めた。
俺の発言が見当違いなものかどうかを吟味しているんだろうな。
すぐ鵜呑みにしない辺り、【天星雲母】は本当に優秀だよ。
……まぁ、今回は素直に伝えたから疑われるのは癪なんだけど。
「過去の【ランゼルート】の行動を思い返してみましたが、そのような節は幾つか思い当たりましたのでおそらく本当なのでしょう。
ですがそこを戦いの最中に的確に突くことが出来るのは色々と試されるものがありますね……」
「そこはこれまでの人生経験がものを言うんだろうな。
俺は仕事でもそういうことが必要とされる場面が多かったから自然と出来るが、お前の場合は煽るよりも救うような言動が要求されるだろうし、訓練しないと無理なんじゃないか?
身体に染み付いた言動はそう簡単に払拭出来るものじゃないし」
三つ子の魂百までと言うしな。
まだまだ若いとはいえ、【天星雲母】の歳まで生きてきたら矯正は難しいだろうな。
「ステゴロスタイルの時の荒々しさがあれば或いは……いや、あれはあれで向いてなさそうでもあるか。
中々難しいもんだな……」
そんなことを考えながら【東雲飛鳥】が頼んだ料理が届いたので食べ始めるのであった……
んおっ!?
なんだこれ、うますぎぃ!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】