2094話 会いたいとかね、そばに居たいとかね
【トランポリン守兵】お嬢様こと【跳流麗華】とオフ会をしている俺……【霧咲朱芽】だったが、出会って早々に手玉に取られてしまったな。
金持ちの道楽にしては悪趣味じゃないかと思ったがこれ以上の追及は蛇足なので止めておくことにしよう。
「それで、今回俺をここに呼んだのはどういう用事なんだ?」
「まずは所謂オフ会というものを一度体験してみたいと思いましてよ!
ワタクシ、オフ会というものをしたことがありませんでしたのでこの機会に【包丁戦士】様とお会いできたらと思っておりましたわ!」
オフ会をしたかったというのはその熱量から伝わってきたので嘘偽りじゃないのが分かった。
目がキラキラしてるからな……
「でも、なんで俺なんだ?
俺ならともかく、お前くらい顔が広いプレイヤーなら会おうと思えば候補なんていくらでもいたはずだろ?」
俺は疑問に思ったことを率直に【跳流麗華】へ伝えることにした。
こいつ相手にこの話題で心理戦を繰り広げる必要なんてないだろうからな……
「それはもちろんボトムダウンオンラインの中でワタクシの考え方をガラリと変えて下さいましたのが【包丁戦士】様でしたわ!」
【跳流麗華】の考え方を変えた……?
「そうでしてよ!
ワタクシは当初犠牲を出さずに綺麗事だけで物事を押し進めることこそが最善と思っておりましたわ。
ですが、【包丁戦士】様と出会ってから時には清濁併せ呑むことも必要で、周りもそれを望んでいるタイミングがあるということが分かりましたわ!」
それは……果たして良かったと断言してもいいのか判断に悩むことだよな。
貴重な純粋無垢な考え方を変えてしまったことを嘆くべきなのか、成長を促したことを喜ぶべきなのかだ。
まぁ、本人が感謝してきてるしここは深く考えずに喜んでおくべきかな?
「それなら良かったんだが、俺は大したことをしたつもりなんてないぞ?
感謝はもらえるだけもらっておくがな!」
「それでこそ【包丁戦士】様でしてよ!
……と【霧咲朱芽】様は大学でも教鞭を執っていらっしゃったとお伺いしたので、人に教えることは得意でいらしたのですわね」
「確かにそれは事実だが、あくまでも非常勤みたいなものだから胸を張って誇れるほどではないけどな。
……張るような胸はないけどなっ!」
俺は【跳流麗華】のたわわに実った果実をガン見しながら定番となった自虐ネタを披露した。
見た目は清純そうな感じなのに、アバターと同じ様に胸はかなり立派に育っているみたいだからな!
ズルいぞ!
「【霧咲朱芽】様、視線が恐ろしいですわよ!
大きくても良いことなんてそれほどありませんわ!」
「持たざる者の気持ちは持たざる者同士にしか分からないんだよなぁ……
これが戦争の火種ってやつか」
「物騒なことをおっしゃるのは止めてくださいまし?」
そんなたわいもない話をしながら時間を過ごしていく。
リアルで会うのははじめてなんだが、不思議にもはじめて会った感じはない。
それこそボトムダウンオンラインの中でしているようなコミュニケーションが出来ているのが心地よい。
「それがオフ会の醍醐味とも言われておりますわよね。
ある程度慣れ親しんだ間柄であればリアルで会うのがはじめてであっても違和感なく話すことが出来ると聞き及んでおりましたが、それが体感できて良かったですわ!」
「そこは同感だな!
トッププレイヤー同士ならある程度コミュニケーションを取り続けていたし、実際に会っても問題なさそうだもんな。
【釣竿剣士】や【風船飛行士】でも行けそうな気はするぞ!」
……とはいえ、【釣竿剣士】は異世界の住人みたいだからな。
会おうと思っても会えるような立地にはいないのでオフ会実現は無謀な案だ。
だから、会えたとしても【風船飛行士】くらいだが……【風船飛行士】に会おうと誘われても会うか悩むところだよな。
「【風船飛行士】様は軟派な雰囲気のお方ですわよね……
現実では硬派なお方とも【虫眼鏡踊子】様からお伺いしておりますが、真偽については気になりましてよ!」
そういえば【虫眼鏡踊子】がそんなことを言っていたな……
確かに時折真面目で鋭い雰囲気になることがあるからあれが素と言われたら納得できる話ではある。
だが、その辺はやっぱり会ってみないと分からないところだからな。
会いたいかどうかは別としてかなり気になるところだぞ……!?
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】