207話 迷走のЖ
【Raid Battle!】
【荒れ狂う魚尾砲(廻)】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日はジェーが顕現してから三日目だ。
ミューンの後釜として出てきただけあって、中々しぶといな。
攻撃自体は、ミューンよりも単調で、基本の動作もそんなに速くないから冷静に動けば死亡頻度は少ない。
だが、頻度が少ない分一回でプレイヤーを死に追いやる数がミューンとは段違いだ。
【#ЖЖ####【Ж】!!!】
あっ、また来たぞ!
「ひぇっ!?
逃げるッス!?」
俺と【バットシーフ】後輩はログインして早々だったので、巨大なウナギレイドボスであるジェーの必殺技の極太レーザー……【魚尾砲撃】を目で見たあとからでも回避することができた。
だが、前線でダメージソースとして活躍していた連中は例外なく光の粒子と化して死に戻りしていった。
「皆さま方、命を大切にしてほしいですわ……
ワタクシがタンクプレイヤーとして守りに加わることができましたら、全て受け止めますのに……」
「お姉さまは自身も大切にしてください!」
プレイヤーが泡のように散っていく様子を見て嘆いている【トランポリン守兵】お嬢様が俺の横にいつの間にかいた。
このポリンお嬢様はこの包丁次元でもトップクラスで倫理観を強く持っているから、この惨状に目も当てられないのだろう。
そんな気質を持っているからこそ、チュートリアル武器がトランポリンという盾カテゴリーのものになったのだろう。
チュートリアル武器は個人に合ったものから選ばれるらしいし、トランポリンは柔らかく守りたいというポリンお嬢様をそのまま形として表したものだろう。
だが、俺たちはこの初心者プレイヤーたちの戦闘に介入することができない。
自分が動けず見ているだけという状況に耐えられないってわけだな。
でも、安心するといい。
「……?」
よくジェーを見てみろ。
あいつは気丈に振る舞っているが、極太レーザーを打つ回数が圧倒的に増えてきてる。
おそらくだが、もうそろそろ倒せるぞ。
もうHPとスタミナ共に枯渇してる。
こいつを一番見てきた西のトッププレイヤーの俺が言うんだ、信用してあとちょっと頑張ろうな!
「あなた様はお優しいのですわね!
ワタクシ感動致しましたわ!」
感動か……結構結構!
じゃあ、ラストスパートと行こうか!
【バットシーフ】後輩!
ストックスロット3つ一気に使って攻めるぞ!
「これまた大胆な使い方ッスね!
でも、俺っちはそういう何も考えない使い方が一番好きッス!」
「ワタクシたちも続きますわよ!」
「はい、お姉さま!」
トッププレイヤーの後輩たちが先陣を切って、もはや何度目か分からない突撃をしかけていく。
こうやって特攻を繰り返していると、死に関する正常な感覚が失われていくからこそプレイヤーに人権がないゲームという謳い文句が爆発的に広まったのだろう。
もはや地獄を通り越して煉獄って感じだ。
「ストックスロット1.2.3【フィレオ】!袈裟斬り!【近所合壁】!」
【バットシーフ】後輩は俺のスキルと太刀筋、それにポリンお嬢様に協力してもらってストックしたタンクプレイヤーの特権スキル【近所合壁】を全開放した。
スキルを2つ発動しているが、スキルチェインにも不発にもなっていないのはabilityの独自の法則によるものらしい。
【検証班長】がそう言ってた。
【近所合壁】のデメリットによって、本来耐久性無限のチュートリアル武器であるバットが木屑のように砕け散り、その木屑が散るのに合わせて1つ1つから袈裟斬りの軌道で飛翔する斬撃が放たれた。
abilityのデメリットで威力が下がるのなら手数で補うまでよ!
本来実現することのないタンクプレイヤースキルと斬撃スキルの組み合わせによって、ジェーはもう息絶え絶えというところまで追い詰められたようだ。
「お姉さま、ワタシが止めを刺します!
ハアアアアアアアアア!」
燕尾服女が最後のだめ押しをするようにサーベルを器用に扱ってジェーに追撃をしていく。
このままだとラストアタックが取られるな……それはこの後輩対決でかなり不利になること間違いなしだ……
次元戦争でもラストアタックボーナスはそれなりの点になっていた。
ましてはこの群雄割拠状態でそのポイントを手にいれたら、勝ち目はかなり薄くなる……
一体どうすれば……
【ヨォ、俺様の半身!】
この頭に響いてくるやつは……ジェーか!
【俺様はまだ負けたくないナァ……】
【そして、お前は俺様が今倒れると困るってワケダァ……】
そうだな。
【イャ~、だけどヨォ俺様のこの身体、弱体化されて用意されたみたいでもう限界なんダァ!】
ほい、それで?
【つまり、代わりにお前の身体を使わせロォ!】
ジェーは最後の足掻きか、全身から紫色のオーラを出して俺に向かって飛ばしてきた。
……いいぜ、その悪あがき俺が引き継いでやるさ!
紫色のオーラはマスコット化した俺に絡み付き、俺の形を変えていく。
身体の大きさはいつものサイズに戻り、全身から紫色のオーラが常に放出されていて禍々しい。
そして、俺が着ていたボロボロのマントとかその他諸々も黒い瘴気に覆われ、黒なのか紫なのかよくわからないバニー服に変換された。
そのバニー服のお尻の部分からはジェーさん自慢のヌルヌルの尻尾が相変わらず生えていた。
そして、その尻尾はジェーが第二形態……白虎ジェーになったときのように2本……いや違う今回は8本生えていた。
八本の頭を持つモンスター……これだけでなんか読めてきた気がする……
この際どい服装はジェーの好みなのだろうか……
【Raid Battle!】
【寄生魚 ジェーライト】
【荒れ狂う魚尾砲(廻)】
【寄生魚】【深淵使徒】【復刻版】
【包丁戦士】
【最上級深淵適正者(寄生依代)】
【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
【正規のレイドボスではない者が混ざっているため、大幅に難易度が低下します】
俺は【深淵纏縛】を使った時のような状態とほぼ同じ……いや、ジェーから直接力を借りたからか、スキルを使ったときよりも力が漲ってくる!!
「来いよお前たち、先輩プレイヤーの俺がいっちょ揉んでやるぞ!
さあ、真の初心者狩りパーティーの始まりだぁぁぁぉぁぁぁ!!!!
ははははははははは!!!!!」
イベント中抑えていたプレイヤーキラーとしての欲望が凝縮された、暴食の悪魔が解放された瞬間だった。
あの……あの……
公式イベント乗っ取らないでください……
これだから深淵適応力の高い存在は……はぁ……
【Bottom Down-Online Now loading……】




