2025話 慈悲の美徳2
【潮騒ローラ】の【生樹技能】である【水流ー大海の型】と【美徳ー慈悲の抱擁】の組み合わせによって生み出された海水の腕に囚われた俺たち底下箱庭側のプレイヤーたち。
それを包丁で切り裂いても、蛇腹剣次元のプレイヤーである【アンソニー】の【修練武器上位解放】ー【命運産載札】の数字カードによる攻撃やスキップカードによるすり抜けを試しても脱出が不可能だったわけだ。
母の抱擁が……というか拘束がキツすぎるぞ!?
「まさにモンスターペアレントだyo!」
まぁ、実際にモンスターの姿だしな……
超巨大クジラの姿はモンスターとしか言いようがない。
それが【慈悲】の美徳を内包していても……な。
「それで打開策はあるのかyo!
全く出られる見込みが無くて絶望的だyo!」
【アンソニー】はかなり悲観的な様子を見せているが、実は俺には秘策がある。
さっき【刻犬舌針】を試したこともあって、その秘策が【潮騒ローラ】の【生樹技能】に通用するのかがだいたい担保が取れたから使わせてもらう。
ただ、あとは脱出した後の動きを決めておきたいところだ。
「そこまで既に思いついているのかyo!
だったら脱出した後に【命運産載札】の数字札を一気に束ねて【潮騒ローラ】にぶつけるyo!」
束ねて使うことも出来るのか!
それはつまり攻撃力も上がるってことなんだろうが、なんでこれまで使わなかったんだ?
大火力をぶつける機会なんていくらでもあっただろうに。
「それは束ねて使うとしばらくの間カードの追加ドローが出来なくなっちゃうからだyo!」
それは致命的だな……
カードの追加ドローが出来なくなるってことはカードを一度使いきってしまったら攻撃のための数字カードや防御のためのスキップカードの補充が出来なくなるってことだ。
そうなると【アンソニー】最大の強みである行動の多彩さが一気に失われることになる。
間違っても序盤や余裕のある時に使うような手段じゃないのはよーく分かったぞ!
だが、ここから畳み掛けるならその手段を使うのはアリだ。
【潮騒ローラ】も巨大化こそしたが、体力はここまでの戦いの中で大幅に削られているだろうし、脱出した後に一度大きなダメージを与えておかないと次に繋がらないだろうしな。
【潮騒ローラ】側もある程度は脱出されることを織り込んだ上で、脱出された後に別の手を打つように構えているはずだ。
そうならないようになんとしても意表を突く必要があるってわけだな!
「【包丁戦士】、準備はいつでも出来てるから好きなタイミングで初めてくれyo!
この海水の腕に捕まってる間も少しずつ体力が削られてるから早く抜け出したいんだyo!」
そうだな。
いくら個人ごとは微妙なダメージとはいえ、底下箱庭側のプレイヤーがかなり囚われてしまっているということはダメージの総量はそれなりに大きくなってしまっている。
打開策の担保は取れているし、やらせてもらうぞ!
スキル発動!【秋風領域】!
俺が発動させたのは【アキカゼ・ハヤテ】と戦って友誼を結んだ時に手に入れたスキル【秋風領域】だ。
海溝世界の代表者として来た【アキカゼ・ハヤテ】が関係しているスキルということもあってか、水を操ることが出来る。
たとえそれが他のプレイヤーが発動したスキルであっても……な!
そして、【刻犬舌針】で試したのは他のシステムを利用しているスキル……いや、【生樹技能】相手にも操作奪取系が通用するのかだ。
それが通用していたということは……
【お母さんの抱擁が言うことを聞かなくなっちゃったわ!?
これは……【包丁戦士】ちゃんに抱き締められているってことかしら!?
……子供にハグされるのも悪くないわね】
巨大な海水の腕の操作権利を【潮騒ローラ】から奪取して俺が腕を操ると、そのまま【潮騒ローラ】をホールドするように抱き締めていったわけだ!
【潮騒ローラ】の身体のサイズは規格外なものになっているが、その【潮騒ローラ】が発動させていたということもあって腕も大きかったのでホールド出来たな。
身体を拘束された【潮騒ローラ】は身動きが取れなくなっていて、攻撃を当て放題になっていた!
さあ、【アンソニー】!
いつ【潮騒ローラ】の拘束が外れるか分かったんじゃないし、今のうちに思いっきりやってやれ!
「了解だyo!
【真名解放】ー【修練技上位解放】ー【Ultra Number Origin】!」
このタイミングで【アンソニー】が使ってきたのはなんと【修練技上位解放】だった!
手元に浮いていたカードたちが束になっていき、全てから攻撃のためのエネルギーが現れてそのまま【潮騒ローラ】へと向かって放たれていった!
【あらあら、まあまあ!!!
い、痛いわよっ!】
これには【潮騒ローラ】もたまったものじゃなかったらしく身体を捩っていた。
やるじゃないか【アンソニー】!
【修練技上位解放】なんて使ってるの【ランゼルート】以外はじめて見たぞ……
これまた面白いプレイヤーということですね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】