2019話 忍耐の美徳3
『そろそろ……来るっ!』
【わたくしの一撃……その人の姿で……全身で受けなさい!】
【プロペラ遊人】の警告と共に放たれた【美徳ー忍耐の収束】と【土遁ー砂地獄の術】の組み合わせの砂のドリルが俺たちに向かって飛翔してくる。
砂塵を巻き込みながら回転力を増すその一撃は、俺たちが巻き込まれたら死に戻りは確実……というよりオーバーキル気味な威力なのは間違いない。
【極楽ジゴク】の言葉通りに全身で受けてやる道理はないってわけだ。
スキル発動!【深淵纏縛PP】!
さらにスキル発動!【塞百足壁】!
俺は砂のドリルを防ぐために黒色の壁を生み出して進路を防ごうとしていった。
だが……!?
『紙みたいに……破れた』
【プロペラ遊人】が言うように全く【塞百足壁】が役立たず一瞬で破られてしまった。
本来プレイヤー相手なら破られたことはあっても、あんなに紙のように破られたことなんて無かったのにな……
それほど天昇箱庭側のプレイヤーのスペックが底下箱庭側のプレイヤーよりも高いってことだろう。
……ってそんなこと考えてる場合じゃないな!?
あの砂のドリルを防ぐ方法を考えないとな。
もう迫ってきてて猶予がないってのに……
俺は思わず包丁を手離して考え始めたが、すぐに何か防御策が思いつくわけもなく時間だけが経過してしまっている。
【これで散るといい】
【極楽ジゴク】もこの一撃で俺たちを葬り去れると確信しているからか、かなり強気な言葉を投げかけてきている。
『……ピンチ。
どうにか……しないと!』
【プロペラ遊人】はそうフリップボードを俺に投げつけてくると、プロペラを回転させながら泥の花弁を次々に空中に生み出していった。
あれは【濁流万花】か!
種族補正が無かったら自刃してしまうデメリットばかりで使い道の少ないスキルなのだが、あのようにプロペラから生やして使えば自刃のために伸びてくることも防げるわけか……考えたな!?
そんな泥の花弁たちは砂のドリルとぶつかり合いながら消滅するものもあるが、空中のプロペラを中心として成長を遂げて巨大化していった。
それが砂のドリルを抑制してお互いに均衡を保ち始めたようだ。
【なぜ、わたくしの必殺の一撃があのようなプロペラに防がれるのか!?
これはわたくしの忍耐も限界……】
はっ、それは底下箱庭側の最大の特徴のおかげだな!
何故なら……
チ ュ ー ト リ ア ル 武 器 は 壊 れ な い !
それがどれだけ強大な攻撃、広範囲な攻撃だとしてもだ!
これが一つの武器にリソースをつぎ込んだ底下箱庭側の生存戦略ってわけだ!
本体と【生樹技能】にリソースを割いた天昇箱庭側では実現できないものだろうよ!
【くっ、まさかそんなカラクリがあるとは……
ですが、まだ均衡を保っているだけ!
今はお互いにイーブン!】
おっ、焦ってきたな?
だが、その焦りはもう少し早くしておくんだったな?
ほら、断頭台のお時間だ!
スキル発動!【儡蜘蛛糸】!
さらにスキル発動!【堕枝深淵】!
【なっ!?
いつの間に!?】
そう俺が宣言した瞬間、【極楽ジゴク】の身体を黒色の茨で拘束していき、さらには天井に投げて突き刺しておいた包丁を蜘蛛糸で引っ張りだして【極楽ジゴク】の首を貫通させていった!
【わたくしの、首を、貫くとは……】
首狩りは得意分野の一つだからな。
一番確実に倒しやすい部位だし。
【拘束されているとはいえ、空中で、包丁も真逆にあった、はず……】
そこは俺の曲芸だな。
底下箱庭側でも絶賛されてるんだぞ!
【流石に、そちら側で皆が同じようなことをしてくるわけではないか……
かなり、安心した……
全員が、貴方と同じことをしてくると、警戒しないといけないところ、だった……】
システムが違うからその可能性もあり得ると【極楽ジゴク】は思ったわけか。
しまったな、せっかくならそう思わせておけば次に【極楽ジゴク】と底下箱庭側のプレイヤーが戦うときに不要な警戒をさせられて楽させられたかもしれなかったんだな。
これは迂闊。
倒したからって口を滑らせ過ぎたか!
【今回は、わたくしの、負け……
あの方への義理立てはしたので、これでヨシとするが……
だが負けは、負け……
後が怖いな……】
そう言い残して砂が崩れるようにして散っていってしまった……
……光の粒子にはならないんだな!?
システムが違えばリソースの形状も違うこともありますよ。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】