2016話 一つのイレギュラーという毒
【極楽ジゴク】がタンク系プレイヤーだと看破した俺だったが、突破に時間をかけてしまえばしまうほど置いてきたモブプレイヤーたちがやられていってしまう可能性が高い。
とはいえ、ここで俺たちが逃げ出すと【極楽ジゴク】が天昇箱庭側のリーダーだった場合次に会うときに倒すことか難しくなるだろう。
こっち側の戦力が今回の分散侵攻で削られた状態になってしまうからな!
タンク系プレイヤーということは持久戦に強いということだから何度挑んでも疲労や疲弊は少ないことだろう。
一方で攻める側の俺たちは減った戦力を補うことが出来ないから時間が有利になることはない。
【貴方たちの置かれた状況が理解できたか?
わたくしも土遁科のセクションリーダーとしての意地があるものでね……
きちんと役割を果たさせてもらおう。
【土遁ー泥豪の術】!】
さっきまで守りを固めていた【極楽ジゴク】だが、ここで姿勢を変えてきて新たな【生樹技能】である【土遁ー泥豪の術】を使用してきた。
泥の弾丸が複数生み出されていき、俺たちに向かって放たれてきたぞ!?
『守ってばかりじゃない……みたい?』
【プロペラ遊人】が言うようにここに来て攻めの姿勢を見せてきたな。
役割を果たすと言ってきたばかりで方針転換をしてきたのには疑問を抱かざるを得ないが、あれを大人しくくらってやるわけにはいかない。
スキル発動!【渡月伝心】!
俺は銀色の円環粒子を包丁の先から放ち、泥の弾丸を千切りにしていく。
だが、出力の差もあり千切りにしきれずそのまますり抜けて俺たちへと襲いかかってきているが……
『……』
【プロペラ遊人】が皆の前に立ち、身体の前でプロペラを回転させていくことで俺が撃ち漏らした泥の弾丸が直撃するのを防いでいった。
あの回転力……やはり何かのスキルを使っているよな?
【プロペラ遊人】はその特権で無言でスキルを発動させることが出来るからな。
スキル発動の発声をしていなくともスキルを使用している可能性を常に考えないといけない。
相手を疑心暗鬼にさせられるという点で有用な特権だ。
無言剣士を相手にしている時は心の中で何度もツッコミを入れていたくらいには厄介に思っていたが、味方として同じ特権を使うプレイヤーがいると心強いな!
【そちらはスキルの発声が不要なシステムか……?
それとも無言詠唱のような特別な能力を持ったプレイヤーなのか……今のわたくしには分かりかねるが、まさか【土遁ー泥豪の術】をシステムのアシスト無しで防ぎきったとは思いたくない】
俺が先ほど考えていたように【極楽ジゴク】は【プロペラ遊人】の特権に頭を悩まさせられているようだ。
底下箱庭側のプレイヤーからすれば【プロペラ遊人】はイレギュラー中のイレギュラーだと分かるのだが、今回がはじめての接触となる天昇箱庭側のプレイヤーからしてみたら誰がイレギュラー的存在なのかを判断するための材料が少ないからな……
今回【プロペラ遊人】を連れてきた役割をこうやってきっちり果たしてくれているのはありがたい。
一度一つの手札を見せるだけで相手を牽制できるって中々やろうと思っても出来ないことだし、そこに価値があるってわけだ。
……まぁ、それは向こうだけじゃなくて俺たちも同じ条件だから【極楽ジゴク】の例が他の天昇箱庭側のプレイヤーに通用しないこともあり得るから注意しないといけないよな。
『……!』
そんなことを考えている間に【プロペラ遊人】はさらに無言行動を仕掛けているようで、プロペラを【極楽ジゴク】に向かって投擲していった。
【何とも不規則な変則をするプロペラ……っ!?
わたくしたちは武器を扱わないので武器を軸にするゲームではこのようにプレイヤーは進化していくということか】
【プロペラ遊人】のプロペラは呪符が巻かれており、スキルを起動することによって段階的な呪力噴出によって自由自在に加速減速、軌道の変更まで行えるわけだ。
武器の扱い方としては拡張性が高くて、ボトムダウンオンラインのコンセプトを体現した戦い方だよな……
【極楽ジゴク】が感心しているのと同じ様に、俺も改めて感心していたのだった……
味方に感心するのは悪いことではありませんが、今は戦いに集中してください。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




