2014話 土遁ー砂地獄の術
【呪いのようなデバフには驚いたが、貴方たちからまだダメージを受けたわけではない。
同胞たちからの報告によると、幸いにも個人としての力は天昇箱庭側の方が強いらしい。
その分、数と連携はそちらの方が上のようだが……だからこそ多少わたくしの力が弱まろうとも誤差!】
……それはそうかもしれないな。
実際、外にいたモンスター連中は底下箱庭側でいうモブプレイヤー相当で、巣穴で俺たちを阻んできたフンコロガシやゲジゲジは2つ名持ちプレイヤーなのだろう。
そして目の前の巨大アリジゴク……【極楽ジゴク】がMVPプレイヤー相当。
そう考えたらこれまでもMVPプレイヤー相手にデバフ一つ当てたところで大きく戦況は変わらないのはこれまでも身をもって実感している。
だが、それでも一つ一つの積み重ねが勝利に繋がることも知っているので【名称公開】を蔑ろにするのは悪手だろうな。
「つまりレイドボスに挑む感覚だろ?」
「いつものことじゃねぇか!」
「やってやるぜ!」
血気盛んなモブプレイヤーたちが意気込んでいるが、その考えは迂闊かもしれない。
敵はAIで動くモンスターじゃなくて、人としての思考を持つれっきとしたプレイヤーだ。
合理的行動以外もしてくるのを忘れるなよ!
「流石は狂人……説得力あるな」
「お前が合理的行動以外ばっかりしてるもん」
「鏡に向かって喋ってるのか?」
なんでアドバイスした俺がこんなに晒されてるんだ……?
わりと真っ当なアドバイスをしたつもりなんだが!
『……日頃の行い』
……それを言われると何も反論できないのが辛いところだ。
まぁいい、取り敢えず油断するなってことが伝わればいいんだ。
【戯れはここまでにして、ではわたくしから……【土遁ー砂地獄の術】】
巨大なアリジゴク……【極楽ジゴク】は【土遁ー砂地獄の術】というものを使ってきた。
【極楽ジゴク】を中心として流砂が発生し、俺たちを引き摺り込もうとしてきたのだ!
足場が持っていかれるのはかなり辛いな……っ!?
これは……スキルか?
【スキル……?
やはりわたくしたちとは異なるワードの力を使うようだ。
これは【生樹技能】と呼ばれるもの……その身に宿した生育する技能たち!】
スキルやabilityではなく、【生樹技能】か。
育てるとか言ってるし、ツリーっていうワードからしてスキルツリーをひたすら伸ばしていくっていうシステムなのか?
まだ【生樹技能】は一つしか見てないから何とも言えないが、とりあえずは【土遁ー砂地獄の術】を対処してから考えるとしよう。
モブプレイヤーたちでこの状況を自力で逃れられるやつはいるか?
「俺は……これだ!
スキル発動!【竜鱗図冊】!」
「私はこれよ!
スキル発動、【想起現像】。
来て……バードンちゃん!」
モブプレイヤーのうちの一人のハンガー使いは【竜鱗図冊】を使い、竜翼を生やすことで上空へと浮かび上がっていった。
もう一人のモブプレイヤーのバードコール使いはスキル【想起現像】でテイムモンスターと思われる深淵の黒い鳥の背に乗って難を逃れていた。
お前ら、とりあえず飲み込まれそうなモブプレイヤーたちを抱えて安全地帯まで連れていってやれ。
この相手だとお前らしか近距離攻撃は出来ないからな!
あと、退避したやつで遠距離攻撃できるやつと支援スキルとか使えるやつはそのまま継続して遠くから戦闘に参加していてくれ。
あとは任せた!
俺がそう指示を出すと、【竜鱗図冊】のモブプレイヤーは頑張って一人抱えて下がっていく。
バードンちゃんという深淵獣の背に乗っているモブプレイヤーはバードンちゃんの上に数名乗せて逃げていった。
……あっ、一人間に合わなくて砂地獄に巻き込まれていったな。
南無南無……
さて、俺もどうにかしないとな。
スキル発動!【天元顕現権限】!
俺は天子の黄金色の左翼を生やしていき、宙に浮かび上がっていった。
俺の手札の中だと、空中飛行ならこれが無難な手札の切り方だよな。
あと気になるのは【プロペラ遊人】だ。
あいつは飛行手段なんて持っていたか?
そう思い見てみると、プロペラを頭の上で回して飛んでいた。
おいおい……確かにチュートリアル武器はプロペラだがまさかそれで飛んでくるとは!
どんな手段を使ったのか知らないが、よく飛べたな……
【翼を生やし、生き物を呼び出し、プロペラで飛ぶ……底下箱庭側のプレイヤーは随分と多種多様な成長を遂げているのだな。
わたくしの【土遁ー砂地獄の術】に嵌まったのは一人……随分と手際がいいようで】
あいにく、俺もそこそこ戦ってきたからな。
こういう咄嗟な場面の判断は鍛えられてきたつもりだぞ!
本当に……今思うと多種多様ですね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】