2012話 【包丁戦士】流切り分け戦術
違和感はあるものの、罠のある場所は遠目に把握できた。
あとは周りにいるモンスターたちの出入りが落ち着けばいいんだが……
あっ、そうだ(唐突)
モブプレイヤーたち何人か……逃げ足に自信のあるやつはいるか?
俺が思いついたことを不意に口にするとモブプレイヤーたちはギョッとした顔で俺を見て後退りしていた。
きっとここから何を言われるのか予想しての反応だろう。
逃げ足の早いやつが囮になってあの巣穴からモンスターたちを誘き出してくれ!
その隙に俺たちが巣穴に潜入して中を探ってくるぞ!
俺がそう言い出すとモブプレイヤーたちは……
「やっぱりか……」
「ほら、すぐに人を使い捨てにしようとする」
「これが狂人ムーヴってわけか」
「思いついてもそんな笑顔で提案なんて出来ないだろ、普通は……」
口々に文句を言い始めた。
おいおい、確かに囮は危険があるが立派な作戦なんだからな!
それに囮側よりも潜入する側の方が敵地に入り込む関係で危険なのを忘れてもらっては困る!
その危険な役を俺自ら遂行するつもりなんだから、そこも考慮して発言してくれよな。
「……なるほど」
「そういう考え方もあるのか」
「狂人には狂人なりの理屈があるわけね」
「それはそれとして笑顔で提案してくるなよ、怖いだろ……」
「私は納得できないわ!」
賛否両論の反応だが、俺の反論を聞いて一定数は納得してくれたようだ。
ここで全員反論するようだったら全員討ち死に覚悟で特攻するか、折角巣穴を見つけたのにスルーして探索を続けるしかなかったので良かった。
「俺、立候補するわ。
そろそろいいところ見せとかないと」
「あては逃げ足は速くないけど、守りに自信があるから立候補するわん」
「俊足のギター使いと言われた実力を発揮するときが来たわ!
運命が鳴り響く!」
何か囮役に立候補したやつは目立ちたいのかわりと張り切っている様子だった。
明確に囮役を募集したので志願者は少なめだったが、あれだけモチベーションが高い奴らがいれば何とかなりそうだ。
頑張ってくれよ!
そう言って俺が送り出すと、俊足のギター使いがギターを演奏しながらモンスターたちを音で誘き寄せてそのまま遠方へと連れ出していった。
楽器を使っている関係で結構音が響いていたので、思っていた以上の数のモンスターがついていったので大手柄なのだが……
あれだけモンスターがいると生き残るのはかなり難しいだろうが、まぁ、何とかしてくれ!
「投げやりダネ!?」
『無責任……』
いやいや、志願者が他にいないんだから仕方ないだろ。
あと、あいつらを助けに行きたいならさっさと巣穴に突入して中を見て戻るぞ!
がら空きになったと思われるから大チャンスだ!
そうして【短剣探険者】、【プロペラ遊人】、モブプレイヤーたちを引き連れて巣穴に突入すると警報のようなものが唐突に鳴り響きはじめた。
「えっ、【包丁戦士】さん!
罠はこのルートに無かったんじゃなかったカナ!?」
あぁ、そのはずだったんだが……
おそらく向こう側のシステム特有の見えない罠のようなものが設置されていたんだろう。
流石にそんなもの見破れるのは第六感が優れているやつくらいだろう。
俺の気配察知は罠には働かないし、罠もリアルにありそうなやつくらいしか見破れないからな!
『向こう側に……バレた?』
これだけ警報が鳴ってるなら間違いなく俺たちが侵入したことはバレただろう。
下手すると外にいるモンスターたちもここに戻ってくるかもしれないので急いで奥まで見てくるぞ!
と、進んでいると俺たちを阻むようにモンスターが現れた。
巨大なフンコロガシみたいなやつとゲジゲジみたいなやつだ。
あの佇まい……外で戦ったモンスターよりも手強そうだ!
「【包丁戦士】さん、ここは私と他のプレイヤーに任せてヨ!
時間がないし、別れて戦おうヨ!」
……いいんだな?
見るからに強そうなモンスターだが、生き残る自信はあるか?
「ここで負けたら【ブーメラン冒険者】に顔向け出来ないカラネ!
活躍のチャンスダヨ!」
『……ファイト』
俺と【プロペラ遊人】、そしてあと数名のモブプレイヤーたちは【短剣探険者】たちを置いて先に進むことになった。
味方を切り分けながら進んでいくのは正直不安なのだが、警報が鳴ってしまった以上は敵の増援が来る前に目的を果たさないと話にならない。
多少の犠牲は払った上で底下箱庭側の勝利を目指すぞ!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




