2009話 モンスター襲来!
「それにしても本当にここは砂漠ダヨネ……
砂しか周りにナイヨ~!」
『歩きにくい……』
【短剣探険者】と【プロペラ遊人】は砂漠という地形に文句を言いながら歩いていた。
「あつぅぃ!」
「歩きにくい!」
「砂が口に入ってきて鬱陶しい!」
「じゃりしゃりする!」
いや、二人だけじゃなくてモブプレイヤーたちも文句を口々に言っているな……
特に代わり映えのしない地形だし、敵も出てきてないからそこに文句が集まるのは仕方ないか。
もしかしたら、ここが敵の思惑かもな。
不満を集めさせて内部分裂を狙ってるとか……?
「【包丁戦士】さん、それは考えすぎじゃないカナ?
悠長すぎるヨ!」
『向こう側……どれだけ考えてる?』
うーん、分からんな。
何せ一度も遭遇してないんだし……
とりあえず10分経ったから……そこの棍棒を持った男!
「えっ、俺?」
急に指名されたモブプレイヤーは驚いていたが……
そう、お前だ!
お前はさっきの開始地点に戻って他の次元の伝令役と合流して情報をもらってこい!
「仕方ないな……とりあえず行ってきます」
棍棒モブプレイヤーはしぶしぶ、俺の冷たい目と他のプレイヤーたちからの憐れみの目を送られながらダッシュでスタート地点へ戻っていったのだった……
これで送り込まなかったら【ロイス=キャメル】にチクチク文句を後から言われてしまうだろうし、一応義務を果たしておくってわけだ。
これでモブプレイヤーたちも俺が役割を果たす気があるのは分かってくれた……に違いない。
「【包丁戦士】さん、そういうこと考えながら指示出してたんダネ!?」
『結構……打算的?』
そりゃそうだ。
一応MVPプレイヤーとして慣れない指示出しポジションに何度も立たされて来たからな。
やりたくなくとも少しはそういう思考回路が鍛えられるというものだ。
ボトムダウンオンラインで鍛えられたと言うのも変な話だが、事実そうなのだから仕方ないか。
「打算的なのはいいけどよぉ」
「そろそろ敵と戦いてぇよ!」
「歩いてばっかりじゃん!」
「戦うために来たのにこれじゃゲームでやる意味ないよ」
……俺が仕事していることに懐疑的な声はあんまり無くなってきたが、その分敵に会えないことでフラストレーションが加速度的にモブプレイヤーたちの間で溜まっていってしまっている。
どこかで解消してやりたいところだが、敵に会えなければ俺もこいつらを自らキルして回るくらいしか思いつかない。
『解決方法が……物騒。
【包丁戦士】さん、いつもこう?』
「そうダヨ~!
結構考えてると思ったら急に力業で解決しようとしていたりして読めないんダヨ」
そこまで読まれていたら俺を簡単にメタれるようになってしまうから、そこくらいの理解度がちょうどいい塩梅だ。
敵を騙すには味方から……とはよく言うが、ここで味方に全部理解されてたらそれはそれでやりにくくなってしまうってことだな。
しばらく歩いていくとようやく変わり映えのない砂漠の光景は同じく変化してないが、ようやくフラストレーションを解消できそうな出来事が発生してくれた。
「うおっ、モンスターが出てきたぞ!」
「あれは……サンドワームやサソリか?」
「いよっしゃぁっ、ようやく戦えるぜ!」
モブプレイヤーたちが沸き立っているのは、ようやくモンスターと遭遇したからだ。
……モンスター出てくるのな?
だが、向こう側はすぐ襲ってくることなくどうやら様子を見ているようだ。
雑魚モンスターにしては高度なAIを積んでいるな?
レイドボス……少なくともゲートキーパーじゃないとこんな動きはしてこなかったんだが。
俺がそんなことを考えているのを他所にモブプレイヤーたちは特攻を仕掛けていっていた。
正直連携もくそもないバラバラな攻撃なのだが、案外いい勝負になってるな。
……まぁ、向こう側の数はこっちと比べて5分の1くらいと少なめなので数の上で有利な俺たちがいい勝負止まりで持ち込まれていること自体モンスターが強いってことになるんだが。
「天昇箱庭側はこんな強いモンスター設置出来てずるい」
「でも、倒せないレベルじゃないからヨシ」
「……いや、こっちも何人か倒されてるから設置モンスターにしては強すぎる気がする」
「ずるい~、こっちもモンスター呼び出したい!」
向こう側のサンドワームやサソリと相討ちを繰り返しながら何とかこの場を包丁次元のプレイヤーだけで制することが出来たのだが……
思っていたよりも消耗が激しいな……
ただのモンスター戦と思って特段指示せずにモブプレイヤーたちと戦ってみたのだが、正直失策だった。
くそっ、ここはリーダーとしての立ち回りを間違えたな……
包括委任の悪いところが出ましたね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】