2話 抜け毛会議
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「さーて、今日も来たぞ~」
俺はログイン早々にレイドボスであるジェーと対峙することとなった。
目の前に立ち塞がる巨体のウサギは、妖しい雰囲気の尻尾を揺らしながら虎視眈々と俺を値踏みするかのように凝視している。
俺も含めたプレイヤーたちは、ログイン場所がレイドボスであるジェーに新緑都市アネイブルを支配されているから、生産職プレイヤー(このゲームでジョブは見つかっていないが、生産活動に励むプレイヤーはそう呼ばれている)だろうが、戦闘メインのプレイヤーだろうが、お構い無しにログインした瞬間からレイドバトルが始まる鬼畜使用である。
全く、傍迷惑なレイドボスだよ……
そんなことを考えていると、レイドボスのジェーが雄叫びをあげて顔のカットインを飛ばしてくる。
雄叫びと共に感じる肌から伝わってくる威圧感が、俺の闘争本能を刺激する。
【#†///ЖЖ^∠≠ЖЖЖ】
カットインに伴って放たれる尻尾の一撃を紙一重で回避した俺は、包丁を片手に体勢を整え直していく。
崩れた体勢のままだとレイドボスの次の攻撃でキルされるのは目に見えているからな。
油断はよくない。
……このカットインはレイドボスの必殺技が放たれる時に流れる特殊演出なんだが、プレイヤーである俺たちがこのカットインを流したことはない。
……このプレイヤーに人権のないゲームでは、俺たちにスキルが与えられてないからな。
今後、俺たちがスキルを本当に手に入るのかすら怪しい。
なんという鬼畜の所業だろうか。
ちょ、それにしても、今日はデレ行動少なくない?
尻尾のウナギが鞭のようにしなり広範囲攻撃を仕掛けてくる。
地面に打ち付けられるその強靭な尻尾は、風音を立てながら獲物を仕留めようと押し掛けてくる。
ちなみにデレ行動とは雄叫びなどのバフやウサギ部分での攻撃だ。
尻尾はめっちゃ強いのでバフデバフ行動以外は大体死ぬ。
案の定、広範囲攻撃で打ち払われた俺は、尻尾に引っ張り飛ばされて樹木の建物に衝突し、その衝撃でミンチと化すこととなった。
肉片が光の粒子となって、俺たちプレイヤーは死に戻りをすることができる。
逆に言ってしまえば、全身が光の粒子になるまではその場に留められてしまうし、留まることもできる。
ミンチにされながら俺がするラストアクションは……
「また来るぞ~」
レイドボスのジェーにさよならの挨拶をした。
もはやこのレイドボスの巨大ウサギに倒されるのは慣れてしまって、死ぬ間際に挨拶できるくらいの余裕を持てるようになってしまった……
ここまで来るとキルされるの許せるぞ。
もはや悟りの境地に辿り着いてしまったと言ってもいいほど、俺はこいつに殺されまくっているからな……
これも修行……とでも思わなければやってられないんだよなぁ……
新緑都市アネイブルで死に戻りした俺は草原エリアでリスポーンした。
そこで待ち構えていたのは、ガチムチおっさんの【槌鍛治士】だ。
草原エリアに作られた簡易な鍛冶場を根城にしている【槌鍛冶士】は、俺を見つけるとそのまま鍛冶場へと歩きながら俺に語りかけてきた。
「【包丁戦士】今日も遅かったな!
どうだ?Ж素材は持ってこれたか?」
死に戻りをするたびにガチムチおっさんの顔が目の前にあるって怖くない?
「怖くないぞ!」
そうなのね……
死に戻りのたびに【槌鍛治士】の顔を見るとこいつが神父か何かに思えてくるのが不思議だ。
「今回も収穫なし!
Ж素材って控えめにいって戦いながら剥ぎ取れるもんじゃないだろ
ムリゲーにもほどがあるんだが?
やっぱりこの依頼って無理なんじゃないか……」
そう呟いてみたが、なんだか頭に引っ掛かるものがあった。
ん?
戦いながら……?
逆転の発想でいくと、戦闘中以外ならいけそうでは?
「剥ぎ取りは無理だけど、アネイブルに落ちてるЖの抜け毛とか集めたら何かいけそうな気がしない?
逃げながら拾って死に戻り、それの繰り返しってどうよ?」
俺の思いつきに、【槌鍛治士】は両手をポンっとした。
「うむ……理論上はできるかもしれんな!
実際新緑都市の名前が分かったのもあそこに落ちていた看板を死に戻りで【草原(仮)】に移送、検証班が時間をかけて文字を解読したからだからな!
レイドボスの素材が同じように死に戻りで持ち帰れるならできるだろう!
ただ、Жから逃げ回りながら抜け毛とか拾えるのか?」
どうやら、可能性くらいはありそうだな。
それにしても、【検証班】か……
あのレイドボスのジェーの攻撃を掻い潜りながら、情報源を持ち帰るとはかなりの検証フリークの集まりになっているのかもしれないな。
一応、あそこのリーダーである【検証班長】とは知り合いだ。
今度、新緑都市アネイブルの攻略について情報を求めに行くのも案外悪くないかもしれない……
時間があったら行ってみるか。
でも、とりあえず、当面はジェーの抜け毛集めに集中か……
俺だけならなんとか回避しながら集められるかな……?
結構ギリギリの勝負になりそうだが。
「うーん、それはやってみないと何とも言えない
まあ、やってみるだけやってみるわ」
レイドボスの抜け毛を集めるというのも乞食のようで正直気が進まないが、このゲームにおけるプレイヤーの立ち位置なんてそんなものだよなぁ……
「ちなみに、抜け毛集めたらなに作ってくれんの?」
「そうだな!
毛の性質にもよるが服や鎧が普通にできそうだな!
ただ、お前の装備に合わせるなら包丁の持ち手に接合するってのもありかもしれんな!
滑り止めになりそうだ!」
滑り止めになりそうだ!って勿体ないだろ……
「抜け毛がどんな装備に変わるかはお楽しみにしておくよ……」
まあ、ほどほどにだがな。
ちなみに抜け毛というワードが出るたびに自分の頭を気にするガチムチなおっさんが居たとか居なかったとか
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