199話 シーフのモーフ
【Raid Battle!】
【包丁を冠する君主】
【菜刀天子】
【次元天子】【上位権限】【???】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【次元をさまよい】
【冒険者を導く】
【聖獣を担うが故に】
【深淵と敵対する】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日はability【現界超技術】を身に宿した後輩野球部員……改め【バットシーフ】のストックとやらを集めてみようと思う。
そのために俺たちは新緑都市アネイブルにある樹木の建物……検証班のたまり場である【メッテルニヒ】に足を運んだ。
ここで、abilityの実演をしながらあいつに検証をしてもらおうと思っている。
「あいつ……ッスか?
検証が好きなんて変わった人もいるんッスね?
俺っちは考えるのはあまり好きじゃないッスから、理解できないッス」
たしかにお前はそんな見た目してるな。
アバターから滲み出てるぞ……
「えっ、マジッスか!?
気合いいれてキャラクタークリエイトしたんッスけど……」
本性は隠せないってやつだな。
つまり、俺のアバターは可憐な乙女だし、俺の本性も可憐な感じだろう。
「えぇ……それは絶対にないッスよ……
だって昨日俺っちをペグで刺した時、物凄い笑顔で怖かったッスもん」
可憐な乙女なら笑顔で笑ったっておかしくないだろう!
いい加減にしろ!
「いや、シチュエーションがおかしいんッスよ……」
そんな他愛のない会話でメッテルニヒからある人物が出てくるのを待っていると、ようやく木の床を歩くようなコツコツという足音が近づいてきた。
「次元戦争お疲れさまでした。
やはり、【包丁戦士】さんが一番のポイントゲッターだったみたいだね」
いやいや、正直【検証班長】の解析が無かったら次元戦争最下位も有り得たから、俺からすると本当に助かったわ。
俺が見込んで連れてった甲斐はあったってものだ。
「そ、それはどうも」
ちょっと照れてるな……
この【検証班長】、素直に誉められるのに弱いよな。
誉められ慣れているはずだが、俺が誉めるとやけに照れてる気がする。
プレイヤーキラーの俺に検証班全体が甘めの対応をしているのは、この【検証班長】の態度が原因だろう。
他の検証班のメンバーは【検証班長】が贔屓にしている俺に強く出れないのだ。
だからこそ、悪名高くなってもゆるーい制裁くらいしか受けてない。
この包丁次元で生きるには【検証班長】に媚を売っておけば安泰だ、【バットシーフ】後輩も覚えとけよ。
「了解ッス!」
「いやいや、明らかに初心者プレイヤーっぽい人に変なことを教えないでくれませんかね……?
……今、後輩って呼びましたよね?
つまり、その初心者プレイヤーは【包丁戦士】さんの新しいクランメンバーといったところかな。
第3陣プレイヤーが参入して日が浅いのに2つ名持ちプレイヤーを引き込むなんて、中々目敏いようだね」
まあ、偶然拾っただけだがな。
「人を捨て犬みたいに言わないで欲しいッス!」
まあまあ、そう言うな。
捨て犬特有の可愛さみたいなものもあるし、誇っていいぞ。
「えぇ……それって俺っち誉められてたッスか……」
「【包丁戦士】さんはそういうところがあるからね。
あなたも追々慣れていくでしょう」
俺の目の前で困惑している【バットシーフ】の肩にポンっと手を置く【検証班長】。
慰めているのだろか……解せぬ。
「それで、ここにわざわざ来たのは後輩の紹介だけではないですよね?
何の検証考察が必要なのかな?」
流石は【検証班長】、察しがいいな。
実はこの後輩、ゲームを始めて早々にabilityが定着してな。
その有用性を見極めたいんだよな。
「それは非常に興味深いですね、どんなabilityなのですか?
名前は?性能は?デメリットは?発動条件は?」
出たよ、【検証班長】の悪い癖。
検証に関わることとなると、周りが見えなくなるほど熱くなってしまうのだ。
まあ、今回はそれでもいいか。
「俺っちのabilityは【現界超技術】ッス!
リアルでできる技能なんッスけど、対峙した相手の使ってきた技術を1回だけ7割の完成度で使えるようにストックできるッス!
ストックはリアルでは最高3つまでだったッス。
あと、abilityのデメリットで思考能力を持つ生物に対して与えるダメージが激減するみたいッスね」
【バットシーフ】後輩が、自身のabilityについて説明した。
こう改めて聞くと、便利そうなabilityだな。
「そうですね。
どうせこれまでに【包丁戦士】さんから無茶ぶりされて何かしらの攻撃を受けているでしょうし、そのストックのどれかを今使って見せてもらえませんか?」
「いいッスよ!
とりあえず、先輩鍔迫り合いしてもいいッス?」
ほい、俺の包丁を喰らいたいならいくらでもやるぞ!
俺は獰猛に襲いかかっていく。
……まあ、今回は検証のためだから手抜きではあるが。
「ストックスロット3!【包丁戦士】さんのペグ攻撃ッス!」
そう言うと、【バットシーフ】後輩はいつの間にか俺の胸元にしまっていたはずのペグを手に取り、バットで俺と鍔迫り合いを繰り広げながらバットを持っている手とは逆の、もう片方の手で胸元に突き出してきた。
まあ、俺の攻撃の模倣ならこの辺か?
俺は攻撃位置に予想をつけて回避する。
すると、やはりと言ったところか俺が予想したポイントにドンピシャで攻撃が来ていた。
模倣にしてはやっぱり完成度高いな……流石はabilityと言ったところか。
「くぅ~、避けられちゃったッスね!!!
先輩の技だから読まれやすかったッスか……」
そういうことだな。
「なるほど、見ていても模倣を開始した瞬間に【バットシーフ】さんの雰囲気が急に【包丁戦士】さんっぽくなりました。
これは、使い方によっては面白いことができそうだね」
俺もそう思うぞ。
……それはいいが、【バットシーフ】後輩はいつの間に俺からペグを盗んだんだ?
全く気づかなかったが……
「あっ、それはつい手癖で盗んじゃったッス!」
俺、盗まれ過ぎでは?
【現界超技術】……特異認定にどこまで作用しているのでしょうか……
【Bottom Down-Online Now loading……】




