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198話 命名

 切り下げの斬撃である唐竹を止められた俺は、そのまま次の攻撃へ移行する。

 唐竹をバットで防がれてしまったが、包丁自体は下まで振り切ることができた。

 それなら次に繋がる攻撃は当然……


 「振り切ってすぐ切り上げ攻撃ッスか!?

 そんな無茶苦茶な動き、身体に負担が凄くきそうッス……

 うわっ!?」


 そんな悠長なこと言ってないでまともにガードしてくれ。

 後輩野球部員は、俺の切り上げ攻撃である逆風を腹部で薄く受けてしまったようだ。


 ……たしかに、人体構造的に考えるなら切り下げてからすぐに切り上げの斬撃をしようとすると関節などに無理が生じる。

 だが、それを押し通すのがVRMMOだ。

 多少の無茶な動きをしたくらいでは、少し痛いぐらいで済むし、最低身体がぶっ壊れても自害して死に戻りをすれば、どんなに酷い状態でも一発で元通りだからな。

 だからこそ、これからのプレイでいかにリアルの倫理観やその他常識を捨てられるかで、立ち回りが変わってくる。

 第1.2陣プレイヤーはそうやって己の技量を高めていったのだ。


 「えぇ……

 それはハチャメチャな特訓ッスね」


 何他人事みたいに言っているんだ?

 お前もそうなるんだぞ!

 戦闘中に関節を外しながら攻撃できるようになって初めて一人前だ。


 ほら、こういう風にな!

 俺は包丁を逆手に持って、後ろ向きに後輩野球部員に近づき肘の逆向きに包丁を振るった。

 さっき後輩野球部員に言ったように、関節を完全に外さないと不可能な攻撃だ。

 レイドボス相手にそんなに使うことはないが、これくらいはできるようになってほしい。


 「ぶふぉっ!?

 左腕を犠牲になんとか防げたッス。

 控えめに言って気持ち悪い動きッスよ……」


 俺の包丁が深々と後輩野球部員の左腕に刺さった。

 胸元を狙った文字通り必殺の一撃だったが、辛うじて防げたか。


 だが、その左腕はもう使い物にならないだろう。

 片手でバットを振るのは難しいだろうからな。


 「そうッスね……

 だけどこれなら片手でも振れるッス!」


 そう言って俺に見せてきたのは、怪しく鈍い光を放つ刃物。

 ……俺の包丁かっ!?

 いつの間に盗られたんだっ!?


 「つい手癖で盗っちゃったッス!」


 やるじゃないか。

 攻撃に関しては全く俺に掠りすらしていないし、防御に関しても俺が求める最低基準をギリギリ越えているくらいだ。

 だが、この窃盗技術は何度見てもピカイチだな。

 いつの間にか俺のチュートリアル武器である包丁が盗まれてしまったせいで、俺は丸腰になってしまった。


 新たな武器を手にした後輩野球部員と、丸腰の俺……

 端から見ると可憐な乙女が襲われている図にしか見えないが、それで勝ち誇るのはまだ早すぎるぞ。


 「……?

 包丁手にいれたッスから俺っちの方が断然有利ッスよね?」


 その考えは甘すぎる。

 このプレイヤーに人権のないゲームで、少し有利になったくらいで慢心していたら、次の瞬間死に戻りさせられているっていうことはざらにある。

 俺も新緑都市アネイブルのレイドボスだったジェーとの戦いでいい感じの立ち回りをしたと思ったら極太レーザーが飛んできて一瞬でおじゃんになった。


 例えば、こういう変化球もあるんだぞ!


 俺は手元を離れた包丁の代わりに、【ペグ忍者】から勝手に拝借したペグを手に取った。

 そして、そのまま片腕の後輩野球部員と鍔迫り合いに持ち込んだ。


 武器の性能的には、耐久力が無限のチュートリアル武器である包丁を使う後輩野球部員が有利だが、そんなカタログスペックだけでは語れない。

 俺は腰に仕込んでおいたペグをもう片方の手で取り出した。

 

 「ここで両手に武器ッスか!?

 卑怯ッスよ!」


 あん?ルールなんて決めてないんだから卑怯も何もないだろう。


 鍔迫り合いで必死になっていた後輩野球部員は、不意の一撃に対応できずそのままペグに胸を貫かれて光の粒子へと変わっていった。


 「うぅっ……」







 死に戻りした後輩野球部員と合流した。

 合流した後輩野球部員は死に戻りしたのにも関わらずどこか満足そうな表情をしていた。


 やけに機嫌が良さそうだな。

 負けたのに悔しくないのか?


 疑問に思った俺は直接聞いてみることにした。

 このゲームだと死ぬのは当然の理だが、他のゲームとかをやった後だと死ぬのに抵抗もあるしやられて悔しいと思うんだが?


 「さっきの戦闘訓練で何個かストックできたッスから!

 このまま何個か盗めるとピンチの時に助かるッス」


 ……??

 なんの話をしているんだ?

 他のゲームのシステムと何か勘違いしてそうだが……


 「これは俺っちの特技ッス。

 リアルだと対峙した相手の使ってきた技術を一回だけ7割くらいの完成度で再現できるんッス!

 一回の攻撃に対して、一回しか真似できないから、消費アイテムを貯めるのに似ているっていうことでストックって呼んでるッス!

 ただ、俺っち頭がそんなに良くないッスからストックは最高3個までしか出来ないッス」


 またまたトンでもないこと言い始めたなこいつ……

 モノを盗むだけじゃなくて、技術まで盗めるのか……

 盗むというよりはコピーみたいな感じだが、なんかこの後輩凄くない?


 というか、リアルで攻撃を受けるってどんな世界に住んでるんだこいつは……


 そんなことを考えていると、脳内に無機質な声が鳴り響き始めた。

 このタイミング……もしや……



 【パーティーアナウンス】



 【【バットシーフ】が称号【世界を超えた力】を獲得しました】



 【称号の効果で【Bottom Down】!】



 【【バットシーフ】の深度が1になりました】



 【ability【現界超技術】が定着しました】


 

 【現界で使用できた個人の特異性が再現可能になりました】



 【以後、思考能力を持つ生物に対して与えるダメージが激減します】




 「【バットシーフ】……?

 なんッスかそれ?」


 このアナウンスからすると、お前の2つ名だろう。

 基本的にプレイヤーが呼び続けて今までは決まっていたが、こんな方法で命名されたりするのか……








 また特異認定ですか……


 【Bottom Down-Online Now loading……】

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― 新着の感想 ―
特異認定……? 読み返すと新鮮な気持ちになりますねぇ、あれじゃあ師匠は実はダメージ激減してたりするのかな?
[一言] やっぱりこのゲームって現実世界でも複数の次元に渡って展開されてる…?ゲーム内次元と同じように10個の次元で売りに出してそれをランダムに配置してるとか…?
[良い点] バットシーフ、カタカナ文字だからプレイヤーネームかと思ったけど違うみたいですね 運営に名前をつけられるあたり、何かしら特別なんでしょうか [一言] 3個しかストックできないとはいえ凄い特技…
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