1970話 王道の聖剣、正義の歩み
狼包丁を遠隔で操作して【ランゼルート】をとことん足止めしつつ、【夢幻深淵】で生み出している羽から【魚尾砲撃】を逆噴射して逃げ続けることで安全を確保しながら戦い続けられるというわけだ。
「くっ、さっき抜き取られた分のスタミナがあれば一気に加速して追いつけたのに……
まさかそこまで織り込んでの戦術なのかな」
……いや、それはただの偶然だな。
なんか深読みされてしまったが、偶然戦い方同士のシナジーが生まれてしまうことはあるので今回は助かった。
あれが無意味だったら本当に泣けたからな……(しみじみ)
「これは【夢魔たこす】の得意技の一つなのだけれど今回は僕が使わせてもらおうか。
スキル発動!【潮灯暗刻】」
【ランゼルート】がまた聞き覚えの無いスキルを使ってきた。
【夢魔たこす】が得意としているって言葉と、スキルの文字並び的に深海スキルなんだろうがどんな効果なんだろうか……
そう思い注視していると聖剣が怪しく輝いた。
その輝きのまま斬撃を放ってくると、切り裂いたところから水流が俺の方へと飛んできた!
しかも、次々に水流を生み出す起点を作り続けてきているので、水流がどんどん増えてきているぞ!?
【夢魔たこす】があんなスキル使ってきているの見たことないんだが!?
「おや、そうなのかい?
【憤怒】状態の【夢魔たこす】の得意技なのだけれどね……
さてはまだ【憤怒】状態の【夢魔たこす】と戦ったことがないのかな?」
【憤怒】状態っていうのはただ【憤怒】の力を貸与されただけのことじゃないよな?
流刑次元の時に見た化物の姿に近いものだろう。
「……その様子だと本当に戦ったことがないようだね。
僕にとっては好都合だけど」
そりゃ、このスキルが初見になってしまったんだからな。
だが、その水流たちならこれで対抗できるぞ!
スキル発動!【刻犬舌針】!
俺は時計の針のような犬舌を発生させてそれを逆時計回りに回転させていった。
すると……
「水流が逆再生されてきた!?
君の手札は本当に忌々しいね……」
【ランゼルート】の作り出した起点ごと水流を逆再生して最終的に消し去っていったぞ!
本来はそこまで巻き戻すのはかなり困難なんだが、【夢幻深淵】のセーラー服フォームだから深淵の力を限界まで発揮できるわけだ。
「それなら巻き戻されないような大いなる力で君を葬り去るしかないようだね。
これは何者にも干渉されず、退くことを許されない正義の歩みを体現したもの……
その王道を阻むことは許されないよ!
スキル発動!【選王底剣】!」
【選底剣エクス】の真の力を発揮した【ランゼルート】。
あれは不味い!
全ての攻撃や効果を受け付けない正真正銘の無敵モードになってしまったんだからな!?
ダメージを受けないのはもちろんのこと、拘束やデバフ、ノックバックすら効かないのはかつて使われたときに実証済みだ。
つまり、ここから先は俺の妨害工作の一切が通用しなくなる。
「さっきまでの包丁での攻撃は諦めたのかな?
賢明だね」
俺の狼包丁戦術もこうなってしまえば【ランゼルート】に無視されるだけなので操作を止めておいた。
正義の歩みとはよく言ってくれるな……!
王道というより、自分以外の全てを拒絶しながら歩む覇道の間違いだろ……
「覇道とは人聞きの悪い……
その口振りだとまるで僕が【ガルザヴォーク】みたいじゃないか」
なんで【ガルザヴォーク】……?
そう思って考えてみたが、そういえば【ガルザヴォーク】はスキルで【覇道逆鱗】【覇道竜陣】というものを多用していたな。
正確には【ガルザヴォーク】の固有スキルじゃなくて竜人系スキルだから【オメガンド】や【プシーナク】も使えるんだが、使用頻度からしても【ガルザヴォーク】が圧倒的に多そうだしその印象があってもおかしくはないか。
それに傍若無人な態度だしな!
「それを君が言うのかい?
君も大概だと思うよ」
【ランゼルート】はそう言いながら俺へとどんどん迫ってきている。
あらゆるものを受けつけず進んできているので、俺の方がスピードが遅い状態になっているわけだが……
おいおい、俺だってまともに操作するのが難しいくらいのスピードで移動してるんだぞ!?
【夢幻深淵】の最高スピードはちょっと前までは操作を誤ると俺自身が肉片になるくらいヤバイものだったが、今では何とかようやく制御出来るようになったものだ。
相当これでも危険なことをしているのにそれでも追いつかれそうっておかしすぎるよなぁ!?
「魔王が勇者に討たれるのは定めだからね。
おあつらえ向きに君は【暴食魔王】だ。
そのお陰で【選底剣エクス】と【選王底剣】は共に性能を上げているのさ!
さぁ、トドメといこう!」
うっ、うおおおおおお!?!?!?
……死に、ましたか?
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




