1969話 聖剣重ね
【ランゼルート】の放った蔓の鎖が俺へと勢いよく向かってきている。
あれに捕まってしまうとヤバイし、拘束という手段なら【マキ】が無敵であろうとも通用するからな。
さっきと同じように【マキ】が俺を庇って身体で受け止めるなら動けなくなる未来が容易に想像できるというわけだ。
俺も無敵中の【マキ】を拘束して、無敵が解けた瞬間に爆殺したこともあったのでそれが通用してしまうのがわかる。
それは過去の被害から【マキ】も分かっていることだろう。
上手いことすぐに対策を考えてきやがったな……っ!?
勇者と次元天子を兼ねて戦い続けているのは伊達じゃないってわけだ。
「でも、変態お姉さんが攻撃を受けたら拘束されるだけじゃなくてダメージも受けちゃうよ~!
え~い!」
【マキ】はそれを分かった上で俺の前に立ち、身体と一体化した巨大蛇腹剣で蔓の鎖を切り裂こうとしていた。
だが……
「ちょっと切れたけど止められなかったよ~!
え~ん!」
多少の抵抗は見せたが、そのまま蔓の鎖に捕まってしまい身動きが取れなくなってしまったようだ。
尊い犠牲だなぁ……(しみじみ)
「悪いけれど【アイシア】の蔓はそう簡単には切れないよ」
【マキ】を拘束できて【ランゼルート】もご満悦のようだ。
狙いどおりになったってわけだからそりゃそうなる。
……でも、そっちばかりに気を取られていると妬けるねぇ!
「!?
包丁だけが後方に回り込んできたのか!?」
その通り!
【夢幻深淵】状態になると俺の包丁は空中浮遊、遠隔操作が可能になるからな。
普段の曲芸とは異なる芸当も可能ってことだ!
狼包丁はそのまま【ランゼルート】の背後から腕を貫通して俺の手元に戻ってきてくれたようだ。
【マキ】を囮にした奇襲作戦は無事成功したってわけだな!
「えっ、いつの間にかうちは囮になってたの~!?
先に言ってよね~!
成功したからいいけど~」
だって先に伝えてたら【マキ】の様子からバレる可能性が高かったからな……
お前って結構分かりやすいし。
「否定出来ないのが悔しいよ~」
「敵を騙すには味方からとは言うけれど、平然とそれをやってのける【包丁戦士】はやはり性根から深淵種族のようなプレイヤーだね。
そして、大きな外傷も受けてしまったから聖剣を振るのにも多少の影響は出てきそうだけれど……まだいけそうっぽいかな。
君たちにとっては悲報だろうけど」
【ランゼルート】は聖剣を握ったり軽く振ったりして戦闘継続にどれだけ影響がありそうか確かめていたようだ。
さっきまでに比べるとスピードの低下や軌道のブレを感じるが、それでもまだ戦えそうな様子だな?
くそっ、聖剣が完全に握れなかったらよかったものを……
「とはいえ、身体の限界も近づいているのは事実だよ。
だからこそ、こういうのはどうかな?
剣現せよ、【選底剣エクス】!」
【ランゼルート】はこのタイミングで新たな切り札を切ってきたようだ。
それは世界剣種の【選底剣エクス】を新たに呼び出すことだ。
ただ、大罪剣の時と違うのは今手に持っている聖剣と別に生み出したのではなく、その聖剣に【選底剣エクス】の概念を重ねて一本の剣として扱っているところか。
「【修練武器超位解放】には至っていないけれど、【修練武器上位解放】と世界剣種を組み合わせたらそれと同等かそれ以上の力を発揮できるんじゃないかなと思ってね。
さて、これでお手合わせ願おうか」
まだこんな隠し球を持っていたのか!?
【選底剣エクス】の剣現自体は警戒していたのだが、【勇者聖剣パラドクス】と組み合わさるなんて聞いてない……
……いや、待てよ?
他の勇者たちの世界剣種も元々持っていたチュートリアル武器と合体していたから今考えたら不思議な話でもないのか。
元々が強すぎる剣だったから俺自身が考えることを自然と放棄していたわけだな。
「そういうことだね。
君たち相手に一本にするのはこれまで過剰な強化だったからあえて使って来なかったけれど、今が使いどころだと判断したから披露したまでさ」
それなら俺の狼包丁を打ち合いをさせてみるか?
それっ、少し前までお前がやっていた剣の空中浮遊攻撃の模倣だ!
対応してみろよな?
そう言って俺は安全圏と思われる場所まで後退しながら遠隔で狼包丁を操作して【ランゼルート】へと襲いかかっていく。
当然逃げる俺を【ランゼルート】は追いかけてくるわけだが、さっき手痛いダメージを負わせた狼包丁を無視することは出来ず都度【選底剣エクス】で迎撃している様子だ。
【選底剣エクス】とぶつかる度に一撃ごとに物凄い勢いで弾き飛ばされてしまう狼包丁だが、担い手がその柄を握っていないので猛スピードで再攻撃のために突撃させられるわけだ!
「嫌がらせにもほどがあるよ……
性根が透けて見えるね」
その通りです。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




