1968話 システムの根幹
「ふぅ……やっと少しだけスタミナが回復するようになってきたよ~!
変態お姉さんって味方でも容赦ないんだね~!
知ってたけど」
「僕も【マキ】もここからスタミナが戦闘中に万全になることはないだろうね。
……だけど、それでようやく【マキ】と君合わせて僕と対等になるはずだ。
【夢幻深淵】の【包丁戦士】と、【湖奼姤之蛇】の【マキ】……相手にとって不足なし、いざ尋常に勝負……!」
そう言い放つと【ランゼルート】は聖剣を手にして俺へと斬りかかってきた。
一種の無敵状態になっている【マキ】を狙うのは無意味だと判断して俺を狙ってきたのだろう。
【マキ】の無敵にも穴はあるだろうが、体力とスタミナも減った今の状況で【ランゼルート】がそこを二人同時に相手にしながら分析するのは難しいと思ったんだろうな。
だが、今の俺は【夢幻深淵】のセーラー服フォームだ!
背中にある十二枚の羽を使ってこういうことも出来るんだぞ!
スキル発動!【魚尾砲撃】!
俺は極太レーザーを十二枚の羽から十二本同時に放つことで【ランゼルート】へ強襲をかけていった。
火力は今までの比にならないくらいのはずだ!
「……ここで的確にカウンターを狙うならこのスキルしかないよね?
スキル発動!【黄竜一閃】!」
【ランゼルート】は俺の束ねた極太レーザーを聖剣一太刀で切り裂いて凌いでしまった。
……出たな黄竜スキル!
シンプルながら最強と呼ばれる聖獣スキルであり、天子スキルでもある。
【ランゼルート】も次元天子だからその力の全てを発揮できるのだろう。
そして、その黄色い斬撃は極太レーザーを貫通して俺の方へと迫ってきている。
いくら【夢幻深淵】のセーラー服フォームとはいえ、あれを食らってしまったら俺は死に戻りしてしまう可能性が濃厚だろう。
それはまずい。
「変態お姉さん、うちに任せて~
スキル発動!【蛇土潜行】~!」
俺のピンチに【マキ】が発動させたスキルは聞いたことがないものだが、俺の危機に間に合うのか!?
「間に合うんじゃなくて、間に合わせるためのスキルだよ~!
ほら!」
【マキ】は真下の地面に潜ったかと思うと次の瞬間には俺の目の前の地面から突き上げるようにして現れてきた。
なるほど、移動補助スキルか!
これまでいくつか見たことがあるからすぐに納得できたぞ!
「そして、うちが身体を使って攻撃から守るよ~!」
【マキ】は【黄竜一閃】をそのまま身体を使って受け止めていき、無傷のまま【ランゼルート】のスキルを終息させていった。
【マキ】のタンクとしての安定感が半端ないな!?
「ふっふっふっ、うちの得意分野だからね~」
そういえば【マキ】のジョブは【パラディン】で、蛇腹剣次元のプレイヤーだけで戦う時はタンクとして味方を守りながら戦っていたと聞いたな。
【マキ】と他の蛇腹剣次元のプレイヤーが合わさって俺と戦った時ってほとんどなかったから実感はないが、こうやって咄嗟に動けるということはやり慣れている証拠だ!
「くっ、さっきから【マキ】の無敵性は厄介だね。
これまで無敵になるスキルやabilityを持つプレイヤーとは何度か戦ったことがあるんだけれど、すぐにその抜け穴が分かったからさほど苦労はしなかったんだよ。
でも、君のものはボトムダウンオンラインという世界の中での根幹に関わるシステムと結びついているようだからね……」
【ランゼルート】にそこまで言わしめる【マキ】っていったい……?
あの【山伏権現】が自らアプローチを仕掛けて、このゲームに連れ込んだプレイヤーなんだから訳アリなのは間違いないと思っていたんだが……
「だからといって倒せないということもあり得ない。
それがこの世界のルールだ、君も例外ではないはずだよ!
だけどその前に【包丁戦士】を仕留めるっ!
スキル発動!【緑王飾彩】!
【アイシア】、力を貸してもらうよ!」
その流れで【マキ】を狙わないのはどうかと思うが戦略としては正しいので文句は言えないところだ。
そして使ってきたスキルはまさかの【緑王飾彩】。
直前に戦った【アイシア】が得意としていた森人スキルのうちの一つだが、【ランゼルート】も使えたのか!
そんな【ランゼルート】によって放たれた蔓の鎖が俺へと迫ってきている。
流石に本家本元の森人である【アイシア】のものと比べると精度や規模は落ちているのは明らかだが、それをねじ伏せるほどの【ランゼルート】本人のスペックで真に迫るほどのものになっているな。
これは……やばいか!?
本当に多種多彩な勇者ですね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




