1963話 勇者の足の味
「悪いけど僕は君に使われる気はないよ?
全力で抵抗させてもらうから、覚悟しておくことだね」
「ふひひっ、怖いご回答ありがとうございますぅぅ!
やっぱり止めておきますぅぅ!
その代わりにこれでどうですかぁぁ!
スキル発動!【儡蜘蛛糸】!」
【キズマイナ】がここで発動させたのはスキル【儡蜘蛛糸】。
蜘蛛糸を手のひらから発射させるものだが、【ランゼルート】はそれを剣で断ち切ろうとした。
まぁ、当然の対応だよな……
「ふひひっ、でもあてぃしの【儡蜘蛛糸】は特別製ですよぉぉ!
剣に巻きつけますぅぅ!」
【キズマイナ】はそれを見越していたのか、蜘蛛糸を操作して剣の斬撃から避けながら、はじめは緩く、後からみっちりと巻きつけていったのだ!
「ふひひっ、強度も操作性もいつもより圧倒的に高まってますねぇぇ!」
「それはやっぱり円卓が汚されたことで深淵の力が強まっているからだろうね……
まさか勇者の君がその恩恵を受けるような深淵スキルを幾つも使ってくるのは予想外だったけれど、蜘蛛糸の場合はこんな強化になるのか……
少し参考になったよ」
戦闘中何度も触れられているが俺と【牛乳パフェ】で汚しておいた円卓がここでまた真価を発揮したようだ。
深淵スキルを強化してくれるので、【キズマイナ】の【儡蜘蛛糸】も対象になっているというわけだ!
【儡蜘蛛糸】は【ファイヌル】のスキルだからな!
「姑息なスキルだね……っ!?
やっぱり僕は深淵種族のスキルが嫌いだよ。
どんなスキルでも嫌悪感しかないからね」
「【ランゼルート】は正義感が強すぎるんじゃない?
私は羨み続ける無力な存在の代表としての勇者だから、手段に別に拘りがないし嫌悪感もそこまでないよ」
「ふひひっ、あてぃしは若干の拒絶反応はありますけど友誼の証なので使いますよぉぉ!」
「……それなら私も協力するよ、【包丁戦士】っち!
スキル発動!【極光眩眼】!」
続いて【キョズコロン】が使ったのは【極光眩眼】。
どんな効果なのかは一目瞭然……といいたいところだが、見ることは出来なかった。
何故なら眩しすぎるからな!
だが、これが答えだろう。
多分だが眼から眩しいくらいの光を放つスキルだろうからな!
そして、【キョズコロン】の持つ【底遷剣バルム】のレンズたちからも光が放たれているので何処から見ても眩しいし、何処を見ても眩しいのだ!
だが、このタイミングで剣を封じて、視界も封じたのはいいものの勇者二人が動けなくては意味がない……
いや、そうか。
そういうことか!
俺は【キズマイナ】と【キョズコロン】の意図に気がつき走り出した。
あいつら二人は俺が動けるようになる隙を作ってくれていたんだな!
【キズマイナ】は反撃を許さないために、【キョズコロン】は気配で相手の位置が分かる俺だけが動けるようにってところか。
そして、ここだっ!
スキル発動!【正義勇足】!
俺はこの時のために温存していた切り札の一つ、【正義勇足】を使って【ランゼルート】へ蹴りを繰り出した!
土手っ腹へ蹴りを直撃させると、【ランゼルート】を一気に後方へと蹴り飛ばすことに成功したぞ!
「くっ、今の力はまるで【勇者】……いや、僕の力並み!?
それに【正義】スキルを君が使うのかい?
まるで悪い冗談のようだよ」
そりゃ、お前の力を食らったものを俺の可憐な身体で消化して得たスキルだからな。
お前の力をそのまま丸々再現させてもらったぞ!
自分の蹴りの味はどうだ?
さぞ美味しかろう?
はははははっ!
俺はボルテージが上がりはじめ、テンションが昂りつつある様子で【ランゼルート】を煽っていった。
一本取ったのもあってついつい調子に乗ってしまったが、【ランゼルート】を困惑させられたのだからそれくらいの役得はあってもいいだろ?
「さっき地中に埋められかけた時にすら味わわなかった土の味を感じてしまったよ。
まさか僕の力をいつの間にか取り込まれていたなんてね?
さっきから味とか消化とか食事に関するワードが出てきているから、それは【暴食】の力によるものかな。
姑息な真似を……」
ははっ、言ってろ!
順当に力を活かしただけの話だからな!
チートを使ってるわけでもないぞ!
「【包丁戦士】っち、そんな強力な攻撃も出来たんだね!?
【ランゼルート】に大ダメージを与えるなんて凄いよ!」
「ふひひっ、一気に勝利に近づきましたよぉぉ!」
お前たちが全力で【ランゼルート】の妨害をしてくれたからな。
特に俺のファンを自称していただけあって、俺の気配察知の鋭さを考慮してあのタイミングで目潰しに専念して全力で【ランゼルート】を妨害してくれたのがデカイ!
「ふへへ、【包丁戦士】っちにそんなに褒められると嬉し過ぎて溶けちゃいそうだよ!」
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】