1961話 羨望の視線、その変遷
「相談は終わったかな?
【キャストオフ】で外していた僕の鎧や剣たちもようやく戻ってきたし、そろそろ戦闘再開といこうか」
俺たちがこそこそと言葉をかわしている間に【ランゼルート】が仕掛けてくる様子が無かったのは自分で外していた装備が時間差で戻ってくるのを待っていたからのようだ。
くそっ、あれって勝手に戻ってくるのかよ……
外したままになるとおもって油断してたな。
「流石に外したままになるならあそこでわざわざ脱ぐ必要はないからね。
刈り取られる前まで着ていても問題ないはずだよ。
こうやって戻ってくるからこそわざわざスキルを使って脱いだのさ」
「ふひひっ、合理的ですねぇぇ!」
「またガードが固くなっちゃったのは厄介だね……
それならこれで攻めちゃうよ!
真の力を発揮して、【底遷剣バルム】!
スキル発動!【底変遷剣】!」
ここで【キョズコロン】が使ってきたのは先ほど猛威を奮っていた【シゼンゼプラ】と同じ様に世界剣種由来のスキル……【底遷剣バルム】の【底変遷剣】だった。
世界剣種由来のスキルはリソースをドカドカ使用する分効果も最上のものになるわけだが、【キョズコロン】のものはいったいどんな効果なんだろうか?
そうして見守ってみると剣の鍔だけではなく刀身にも丸型のレンズが根元から先まで幾つも生えてきていた。
うわっ、キモっ!?
そして、【キョズコロン】の背中の装備が剥がれ落ちていった。
「ふーん、こんな風になるんだね~
背中から中心にリソースが剣に徴収されてるみたい」
あー、だから背中の装備が剥がれたのか。
「つまり、君は背中が弱点になったわけだ。
そこを突いて勝負を一瞬で決めさせてもらうよ!
スキル発動!【フィーレ】!」
【ランゼルート】はその持ち前の身体スペックをフル活用して【キョズコロン】へと肉薄すると、そのまま背後に回り込み崩壊をはじめている背中への飛翔する斬撃を直接放っていった。
あいつ、カタカナスキルの【フィーレ】は俺の使えるカタカナスキルの【フィレオ】と同じく離れた位置からでも攻撃出来るものなのにわざわざ至近距離から使いやがったな!?
後方へ退避された時への対策で斬撃を延長させるために使ったんだろうが用心深過ぎるだろ……
あれは流石に躱せてないだろ……
そう思っていたがどうも様子が異なるようだ。
「悪いね【ランゼルート】。
今の私には視えていたよ!
【ランゼルート】がどう迫ってきていて、攻撃する瞬間が背後だったとしてもそれを見つけ出せちゃうみたいなんだよね~」
「これは驚いたよ。
まさか見破られていたなんてね……
こうも完璧に防がれてしまうのは意外だよ。
……まさかその剣のスキルの効果かな?」
「その通りだよ~!
全ての場所と角度を見渡すスキルだね!
戦闘能力そのものは上がらないんだけど、演算能力の補助もしてくれるみたいだから同時に複数の角度を視れるんだよ」
千里眼みたいなもの……なのか?
しかも演算能力も引き上げてくれるならその力をもて余すこともあまりないだろうから、そこだけは安心だな。
とはいえ、背中から身体が崩壊していっているほどリソースを食らい尽くしているのは事実なので、その長くは持たないだろう。
【キョズコロン】が全てを見渡せるからと言っても【ランゼルート】のような圧倒的暴力相手に勝機はあるのか?
「【包丁戦士】っちが心配ならこれを見せてあげようかな!
スキル発動!【呪眼狐離】!」
【キョズコロン】が放ったスキルは【牛乳パフェ】も使っていた呪力のこもった魔眼スキルだな!
それが……
「複数方向から同時に魔眼の視線が飛んできた!?
もしや、あの剣の刀身に取りつけられたレンズたちも同時に魔眼スキルを連動発動させてきているのか……
そうだとしたら厄介だね……一発が重ねがけになるから重症化するのも一瞬ということになる」
「えっ、一瞬でバレちゃったね!?
これは説明せずに隠しておこうと思ってたのに……
ちょっと悔しいかも。
でも、【ランゼルート】の言うように魔眼スキルを【底遷剣バルム】を経由して一緒に使えるんだよ!
【底遷剣バルム】はこれまで色々な存在の手に渡ってきた剣。
その変遷の数だけ視点を持つ変わった世界剣種ってことだね」
つまり、【キョズコロン】の力はそういう方向性でスキルツリーが伸びているわけだな。
中々難しい概念だが、本人が理解しているならいいか……
世界剣種の担い手が変わることはそれほど珍しい話ではないですからね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




