1959話 罪剣を刈り取る
「ではさらに参る!
スキル発動!【疾風迅雷】!」
【シゼンゼプラ】はもう何度目になるか分からない【疾風迅雷】で速度と威力を上げて【ランゼルート】へと肉薄する。
一瞬聖剣で受け止めようと反射的にピクリと動いたが、次の瞬間には剣を引っ込めて回避行動で凌いでいた。
「ついつい攻撃を防ごうとしてしまうよ。
これまでのクセが抜けないね……」
俺の不意打ちですら咄嗟に剣を出してきていたくらい剣に頼りきった防御をしていたからな。
そりゃ剣を出したくなる気持ちもわかる。
とはいえ、それをしてしまうと剣そのものが刈られてしまうので自分のクセを自制しないといけないわけだ。
【ランゼルート】に同情したくなるくらい理不尽な能力を持った剣だよ、いや本当に。
「ふひひっ、あてぃしは骸骨兵たちで身を守れば時間まで防げそうですねぇぇ!
相性はあてぃしの方が有利そうですよぉぉ!」
「私が【シゼンゼプラ】を相手にしたら普通に負けるね。
遠距離からの攻撃だったら刈られても私自身には問題ないけど、戦闘経験とか身のこなしが足りないよ!
無強化の【包丁戦士】っちの方が勝ち目があるんじゃない?」
それは流石に買い被り過ぎだろ……
無強化状態で勇者相手に立ち回るのは至難の技なんだからな?
「何でも刈られてしまうのは多分だけど武器だけじゃなくて、防具とか身体とかも対象になりそうかな?
そうなると僕の鎧も今だけは無用の長物ということだから……一旦はこうしておこう。
スキル発動!【キャストオフ】!」
ここで【ランゼルート】が使ってきたのはまさかの新カタカナスキル【キャストオフ】。
効果は一目瞭然で、上から下までの金属鎧部分だけを消し去り身軽な服装へと変化させていた。
「これであとは君を倒してから再装備すれば安心だね」
「再装備させる前に拙者が【ランゼルート】を刈り取ってしまえばそれも出来ぬがな!
拙者のリソースが尽きる前に全てを断つっ!」
【シゼンゼプラ】はそのまま【叢底剣アメノ】を振り回し、【ランゼルート】を狙う……のではなく骸骨兵たちを襲っていた世界罪剣たちを切り捨てていった。
見たところ、【嫉妬剣ティル】、【傲慢剣ティル】、【怠惰剣ティル】が今切られたんだな。
「なっ!?
僕が装備を解いた瞬間に世界罪剣たちを狙いに行くなんて……っ!?」
「拙者、風来坊にて!
風の向くまま気の向くまま、狙う対象も気分で変わるとも」
「さっきのすぐに僕を倒すっていう発言から一瞬で狙いが変わったから驚いたよ……」
意図的に変えたとかじゃなくて、気分で変えてみたってところが風来坊な【シゼンゼプラ】らしいな。
だが、その甲斐もあって世界罪剣という戦力もさらに削ぐことができ、何より【ランゼルート】の意表を突けたのがデカイ。
そういうのの積み重ねが【ランゼルート】の処理能力へ負荷をかけられるわけだからな!
【ランゼルート】が思ってもみないことをやればやるほど、【ランゼルート】が「この相手はこういうことをやってくるかもしれない……」という可能性を広げさせて、思考の範囲を際限なくさせることが出来るというわけだ。
多分だが、俺も【ランゼルート】の中では曲芸の多彩さで同じようなことを押しつけているので【ランゼルート】への勝率がいいのだろう。
「君はそんなことを僕相手に考えていたんだね。
思っていたよりもさらに考えて対策してきていたのが分かって意外だよ。
……とはいえ、それが分かっても僕がやることは変わらないし君や【シゼンゼプラ】を警戒しないといけないのにも変わらないけどね」
そりゃそうだ。
俺や【シゼンゼプラ】の行動パターンが【ランゼルート】の思考に左右されるわけじゃないからな。
「それはそうとして、これ以上世界罪剣を出していても同じ様に刈り取られるわけだから同じ様に【キャストオフ】で下げたいんだけど、あいにく世界剣種はこのスキルの対象外でね……
残った世界罪剣は【シゼンゼプラ】攻略のリソースとしての手札にさせてもらおうかな?
あと三本しかないけれど、この三本あれば【シゼンゼプラ】の命と交換出来る糸口は見えているからね」
「世界剣種と比較されるとは光栄なこと!
だが、拙者も【叢底剣アメノ】の担い手……
この剣が剣現している間に負けるわけにはいかぬ!」
お互いにバチバチの戦意を向けあっているな。
誇りと誇りのぶつかり合いってわけだ。
……まぁ、そんな中しれっと気分で狙う相手を変えていた【シゼンゼプラ】は本当に掴みどころがなくて俺もよく分からないが……
劣化天子で分からないなら私も分かりませんね。
同類だと思っていましたよ。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




