1958話 刈り取る叢雲の剣
「ふひひっ、そっちがその気ならあてぃしもさらに強化していきますよぉぉ!
スキル発動!【堕音深笛】!」
【キズマイナ】は【ランゼルート】の攻め手が一瞬弱まった時に骨笛による演奏を開始していった。
それによって発生した黒い霧は俺のものと異なりガシャドクロのような形を作り、このガシャドクロに触れた骸骨兵たちは外骨格のような装備品が追加されて次々に強化されていったな!
「その骸骨兵はそんな強化も出来たのか。
数で優位を取れるのに、質も上げられるとは恐れ入ったよ。
強化は微々たるものであっても、これだけの大軍が一斉に強化されたなら合計の上がり幅は相当なものになるからね」
「ふひひっ、あてぃしが勇者になる前から付き合ってきた戦いかたですからねぇぇ!
この戦い方なら幾らでも戦えますよぉぉ!」
「【キズマイナ】の戦い方……【包丁戦士】っちは知ってた?
こんなに出てくるなんて聞いてないんだけど!」
「魑魅魍魎……とはやや異なるが似たようなものではあるな。
そのまま【ランゼルート】を押し倒してくれたらいいのだが……」
骸骨兵たちの強化に他の勇者たちは色めき立ったが、その一方で【キズマイナ】の顔色はあまり良くならなかった。
「ふひひっ、強化しても一瞬で倒されてしまいますよぉぉ……
強化した意味が全く感じられないですぅぅ!」
「誉めた直後で悪いけれど、僕相手にはその程度の強化だけでは通用しないよ。
僕に勝つのなら量ではなく質で勝負してくれないと無意味なのさ」
「どっちも反則過ぎるよ!?」
「やはり懸念通りであったか……
拙者の見通しでも同じ形になると思っていた」
戦術眼ではこっちの勇者の中では【シゼンゼプラ】が特に長けているわけか。
とはいえ、見切れていたとしてもこのままでは力が足りないわけだが……
「それに同意だ。
そろそろ拙者の世界剣種を披露する頃合いであろうな。
強敵を穿つために剣現せよ、【叢底剣アメノ】!
スキル発動!【叢天底剣】!」
【シゼンゼプラ】はここまで隠してきていたジョーカーのような手札……世界剣種である【叢底剣アメノ】を剣現させてきた。
その手に持っていた日本刀に水蛇が纏わりつく形で装飾が施されていき、真の力を発揮し始めたようだな!
日本刀自体の形も変化していっており、当初のものとはまるで異なっていた。
「ここで鬼札を切ってきたわけか。
それは流石に警戒しないとね?
そっちの【キョズコロン】が持つ【底遷剣バルム】はさっき剣現をはじめて成し遂げたばかりということもあって、まだ力を二割も発揮できていないから多少は余力があったけれど戦い慣れしてそうな【シゼンゼプラ】が持つ【叢底剣アメノ】は相当警戒が必要だと思っているよ」
「それは光栄!
では、参る!」
【シゼンゼプラ】は挟み込まれていた【叢底剣アメノ】を一気に振り下ろすと、【虚飾剣ティル】と【強欲剣ティル】を一気に断ち切っていった!
うおっ、切断出来たのか!?
あの世界剣種を!?
「あくまでも一時的なものではあるがな。
草刈りのようなもので、どんなものでも一時的に触れた部分を刈り取ることが出来る便利な力を持つのだがしばらくするとその部分は復活してしまうという難点がある」
つまり短期決戦用というわけか。
まぁ、世界剣種の力を剣現させつつそれをフル活用していたらリソースはすぐに枯渇してしまうし、その点を踏まえたらかなり噛み合っているな。
「それは……かなり不味いね。
君に世界罪剣を差し向ければ差し向けるほど僕の手元から剣が消えていくということだからね……
流石にその能力は想定していなかったよ。
さて、どうやって戦うべきかだけど……不覚にも少しワクワクしているんだよね。
久しぶりに攻略するのに頭を悩ませる能力だ。
【包丁戦士】のような何が起こるか分からない曲芸とは違って、真っ正面から戦って負けそうな明白な力っていうのは僕の立場や力だと滅多にお目にかかれないのさ!」
随分と【シゼンゼプラ】と【叢底剣アメノ】をべた褒めしているな。
よりにもよって俺を引き合いに出しているということは半分俺への当てつけなんだろうが、過去に自分を倒した相手と並べるということでもあるので素直に自分が敗北する可能性があるというのを認めているということでもある。
それほど凶悪な能力の剣とスキルということだ。
俺だって何でも刈ってしまう剣が相手なんてしたくないし、勝ち目も薄いからやりあいたくないぞ!
私も嫌です。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】