1954話 圧倒的力不足
「【包丁戦士】っちにいいところを見せないとね!
スキル発動!【開明氷眼】!」
【ファインド】のチュートリアル武器である双眼鏡ごしに放たれたのはスキル【開明氷眼】……見た相手の一部を凍らせるものだ!
これで【ランゼルート】を凍らせられたら二人の【勇者】が一気に戦いやすく……
「ならないよ」
俺の希望的観測や【ファインド】のやる気を切り捨てるかのように【ランゼルート】はピンピンしながら【キズマイナ】へ剣を振り下ろしていた。
「ふひひっ、一撃が重いですねぇぇ!?
【包丁戦士】さんがあてぃし相手にいつも似たようなことを言ってましたけど、それが今どんなものかはじめてわかりましたよぉぉ!」
「助太刀いたす!
はぁぁぁぁぁっ!!!」
「流石に同時に剣で攻撃されると少しは厄介だね。
下手すると反応が間に合わなくなるかもしれないから気をつけないと」
そのまま三人での剣戟が繰り広げられていき、周囲では激しい衝撃波が飛び散っていっている。
何を言いたいのかというと、俺も下手に入り込めない激戦地帯になってしまったというわけだ。
流石にあの中に入り込んで巻き込まれないようにするのは至難の技だからな……
「【包丁戦士】っちでもそうなんだ……
でもまさか私のスキルが全く効かないなんて思わなかったよ!?
だって、さっきまで【牛乳パフェ】っちがいて同じ様に魔眼スキルで【ランゼルート】に妨害してたのを双眼鏡で見てたし……」
確かに……
もしかして【開明氷眼】だったからダメだったとか?
他のスキルを試してみろよ。
「【包丁戦士】っちがそう言うなら……
スキル発動!【蛇眼閃光】!」
次に【ファインド】が使ったのは【蛇眼閃光】……こいつの得意技だ!
双眼鏡を覗き込み発動されたこのスキルは規模が大きくなった眼からビーム攻撃なのだ!
それを他の【勇者】たちがいるところへ放たれていった。
……おいおい、味方も巻き込む気かよ。
そんな呆れた感情も持っていたが、攻撃で舞い上がった砂埃が晴れるとそこには……
「何度も言うけど君の攻撃は効かないよ」
「ふひひっ、びっくりはしましたけどほぼ無傷ですねぇぇ!」
「特に支障なし」
【ランゼルート】、【キズマイナ】、【シゼンゼプラ】はそれぞれ特に外傷もなくそのまま再び剣戟を再開していったようだ。
「【包丁戦士】っち~!!!
全く効かなかったじゃん!!!
もう~、自信無くしちゃうよ~!!!」
満を持して参戦したのにも関わらず戦況を何一つ変えられないことに地団駄を踏んで怒りを表していた。
まさかここまで効かないなんてな。
【牛乳パフェ】は普通に参戦していたのに何が違うんだろうか?
「やっぱりMVPプレイヤーとそこらへんにいるプレイヤーとの力の差ってことなのかな……
【牛乳パフェ】っちもMVPプレイヤーとして戦線に立ち続けていたわけだし、私とは格が違うんだよ」
今度は悲観的になり始めたな。
面倒なやつだと言って切り捨てるのは簡単だが、ここにいるのが包丁次元の下手な2つ名持ちプレイヤーでも同じことになっただろう。
【ランゼルート】相手に多少戦えそうなのはトッププレイヤー4人と【ペグ忍者】、【フランベルジェナイト】……あとあんまり知らないけど【トンカチ戦士】くらいか。
もちろん勝てるとかじゃなくて立ち回れるかどうかって話だが、【ファインド】はこの枠内に入れない力量だったというわけだ。
キャラクタービルドや、センス、それに蓄積……それが足りてないってことだろう。
「ううっ、【包丁戦士】っちって中々辛辣なことをあっさりと言うよね」
こういうのは濁す方が酷ってものだ。
事実として存在していて、今もお前の前に立ち塞がり続けている問題だからな。
「でも、その問題に直面した私はどうすればいいのかな?
【包丁戦士】っちなら分かる?」
具体的に何をすればいいのかは知らん!
だが、指針はわかる。
「えっ、そうなの?
教えてよ!」
なーに、簡単だ。
強くなりたいと思え、ただひたすらにだ。
そう、目の前にいるアイツら【勇者】こそいい見本だな。
「私もなりたい!
あの【勇者】たちみたいにっ!
なりたい!なりたい!なりたい!なりたい!なりたい!なりたい!なりたい!」
連呼しながら決意表明している【ファインド】だが、愚直に俺の言ったことを守ってくれているのは嬉しいことだが流石にそれを連呼してるだけでも強くはなれないんだよな……
俺を信奉し過ぎだろ……
そう思った直後に【ランゼルート】が放った聖剣のビームがこちらへ飛んできて、そのまま【ファインド】を光の中に呑み込んでいってしまった……
えぇ、そんな結末かよ……
可哀想過ぎる……
私、死んじゃうんですか……?
強くなりたいと決意した直後に……?
憧れの【包丁戦士】っちを前にそんな結末なんて嫌です……っ!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】