1947話 2人の勇者
【濁流万花】と【転火宝刀】をぶつけ合っているが、このままだと普通に俺が負ける。
ある程度のお膳立てをした上で鍔迫り合いのような状態になっているのだが、素の強度に差がありすぎなので【濁流万花】の濁った花弁の刃は瓦解寸前となっているわけだな。
「虚栄の産物だね。
このまま鍔迫り合いを続けても僕は勝てるんだろうけど、君はその前に別の手段を準備するはずだからこちらから先手を打たせてもらうよ?
スキル発動!【青龍偃月】!」
【ランゼルート】が使ってきたスキル【青龍偃月】は青龍偃月刀を生み出して空中で操作するものだ。
……つまり、空中操作している得物が2つに増えてしまったということになる。
くそっ、【転火宝刀】だけで手一杯なのに余計なことをしやがって……!
これで聖獣の力が弱体化してなかったら既に俺は死んでたぞ!?
「円卓を汚されてしまった影響で決着が遅れてしまっているけど、今の君にこれを対処できる余裕はないだろうしトドメを刺させてもらうよ」
【ランゼルート】がそう宣言すると、青龍偃月刀が俺に迫り命を刈り取ろうとしてきた。
【濁流万花】の維持で手一杯なのもあり、このまま逃げることも隠れることも出来ない。
つまり……死ぬっっっっっ!!!!!
「風の向くまま、気の向くまま……
荒風を辿ってみれば激戦地。
相対するは別次元の【勇者】……これは拙者の出番であろう!
スキル発動!【犬風波月】!」
俺のピンチに颯爽と現れたのは風来坊の衣装を着た【勇者】……【シゼンゼプラ】だった!
そんな【シゼンゼプラ】が使ったスキルにより空気を振動させていき、【ランゼルート】の放った青龍偃月刀はそのままの軌道を保てず地面へ落下して自壊していった。
あっさり使ったスキルで【ランゼルート】と張り合えるのは流石【勇者】だな!?
俺がここまでやってギリギリなのに……
「そちらには悪いが炎の刀は自力で何とかしてほしい。
拙者は【ランゼルート】本人に注力せねばならないからだ」
少しでも分担して【ランゼルート】の演算能力に負荷をかけないといけないってわけか。
【ランゼルート】はこれで【【牛乳パフェ】】&【チェーンバ】、俺、【シゼンゼプラ】という三面同時戦線を一人で対処しているわけだが、それでもまだ余力が全然あるし妥当な判断だ。
俺もそれには文句言えないな。
「ここで別次元の【勇者】の登場とはね。
僕も別次元の【勇者】に会うのははじめてだから新鮮な気持ちだよ。
……でも、力量の差はお互いに見た瞬間分かった感じかな?」
「そうであろうな。
経験と歴、抱えているものの差がそのまま浮き出ている形か。
確かに拙者だけではまだお主の領域には手が届かない。
だが、ここには不確定要素となる味方がいるからこそ勝機はある」
【シゼンゼプラ】は俺たちがいれば勝機はあると言ってくれているが、微々たるものだろう。
だがそれを踏まえた上で正面からぶつかっていくのは【勇者】としての風格を感じるぞ!
「先程は拙者が防衛に回ったが今度は攻め手をやらせてもらおう。
スキル発動!【蒼狼風咆】!」
【シゼンゼプラ】はスキルの発動を宣言した後息を大きく吸い込むと、それを一気に吐き出してその風圧で【ランゼルート】を押し潰そうとしていった!
これはステッキ次元の【シャルル=ホルムズ】が使っているのを見たことがあるんだが、その規模よりも格段に大きくて周囲に落ちていた瓦礫が全く残らないほどだ!
「その一撃も直撃すると痛そうだね。
だから防がせてもらうよ?
スキル発動!【月下心裏】」
ここで発動させたスキルは【ランゼルート】にしては珍しく完全に防御する用途のスキル……【月下心裏】だった。
三日月の形をしたバリアが張られていき、それが風圧を真っ向から受け止めているな。
「……見事。
やはりリソース量で上回っている相手であればこの攻撃を通用しないか。
望遠鏡次元でプレイヤー相手にこのスキルを使えば一蹴出来ていたのだが……」
「生憎僕も【勇者】だからね。
風が吹けば倒れるようなその辺のプレイヤーたちと一緒にしてもらっては困るよ」
「そうであろうな」
そんな呑気なことを言っているが、辺り一面は暴風が吹き荒れており俺は立っているのもやっとだ。
だが、そのお陰で【転火宝刀】の勢いもどんどん弱くなっていき炎が今にも消えそうになっていたので俺の【濁流万花】と相殺させておいた。
範囲攻撃だと結果的に防御にもなるからありがたい話だ。
……俺の身が別の危険にさらされることを除けばな!
【勇者】と【勇者】の激突……歴史上初でしょうね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




