1946話 炎と水の刃
元々臨戦態勢だった俺以外の、【牛乳パフェ】と【チェーンバ】も無事参戦出来たこともあり、さっきまでよりは幾分かマシな状況になってきたがそれでもなお圧倒的にこっちが圧されている。
辛うじて防御がなんとか出来るようになったくらいだな。
「ケケッ、レイドボスを予め味方につけられていて良かったんだぞ……
【ランゼルート】のヘイトがいい感じに散らばってくれていておれのヘイト管理も楽になるんだぞ……」
まぁ、お前は直接狙われてしまったら防御面に不安がある……というかほぼ死ぬだろうからな。
しかも、お前のスキルは一撃で致命的になるものが少ないからこそ前衛がいればそちらを優先に攻撃してくる。
俺と【チェーンバ】がタンクの役割を果たしていればしばらくは安全だろうよ。
「ケケッ、期待してるんだぞ!」
「悪いけれどその期待ごと消し飛ばさせてもらうよ?
スキル発動!【転火宝刀】!」
【ランゼルート】が次に繰り出してきたスキルは炎で作られた剣を空中で操作するものだった。
おいおい、徹底的に火攻めだな!?
俺の弱点を突いてきている……というよりは【チェーンバ】の弱点属性を意図的に選んでいる感じだな。
偶然俺と弱点が被ってしまっているのだろう。
なんという不運だ……
「ウゲゲッ、さっき火を止めたと思ったらまた別の火が上がってきたんだぞ!?
おれは狼と猪の勢いを止めるので精一杯だから【包丁戦士】が何とかしてほしいんだぞ!」
くそっ、弱点属性相手に無茶苦茶言ってくれるな……!
だが、【牛乳パフェ】と【チェーンバ】はまだ【戌亥北火】の対処をしているから俺しか動けないのも事実だ。
ええいっ!
スキル発動!【天元顕現権限】!
俺は使える手札を増やすために天子の黄金色の左翼を新たに展開していった。
「おや、君もここで天子の力を使うんだね?
自分で円卓を汚しておきながら随分と図々しいね。
それで扱う力が減退してしまうのは僕のもので見たから分かっているはずだけど、それでどうするのかな」
自業自得だが、そこは仕方ないだろうよ。
だからこそどちらの影響も受けているスキルを使えば帳消し……いや、若干プラスの影響をうけたものとして使えるはずだ!
スキル発動!【濁流万花】!
俺は濁った水の花弁を生み出し、【ランゼルート】の【転火宝刀】の端を削るように何度か擦らせていった。
ぶっちゃけ、正面から当たったら一瞬で俺の【濁流万花】が負けるのだが端に触れるくらいなら耐えられるというわけだ。
「それで少し軌道を変えるつもりかな?
確かに少しだけなら変わるかもしれないけど誤差だと思うよ」
そりゃそうだ。
俺だって分かっててやってるんだからな!
だが、それは本目的じゃない!
増大しろ、【濁流万花】っ!
度重なる衝撃を受けて増強されていった【濁流万花】は大きさだけなら三メートルほどの大きなものへと成長を遂げていた。
……あの【転火宝刀】、さては高速振動してやがったな!?
じゃなかったらこの短時間でここまで【濁流万花】が大きくなるなんて理屈が分からないし……
「なるほど。
水属性、深淵の力、【流動】、【生命花】の力を備えたスキルというわけか。
君以外が使っているのは見たことがないから、包丁次元で独自の変化を遂げた【水流万花】の派生スキルというところだろうね。
随分と醜く派生したものだ、憐憫さえ感じてしまうよ」
【ランゼルート】の言うようにこのスキルは正統派生とは言えない歪なものだろう。
それは包丁次元の連中のほとんどが認識しているくらいだ。
だが、歪なりにきちんと成立しているのだ。
これを活かしてやらないのはプレイヤーの怠慢だぞ。
特に深淵の力を駆使する俺ならな!
そう言ってリソースを溜め込んだ俺の【濁流万花】と【ランゼルート】の【転火宝刀】の刃同士をぶつけ合いはじめた。
ここまで成長させた甲斐もあってなんとか打ち合いは成立するようになったらしい。
そこから自己成長もしているので破損とトントンになっているな。
「驚いたよ、まさかここまで大きな力になっているとはね。
君自身がこのスキルに最適になるように深淵の力と天子の力をその身に顕現させているのもあるだろうけど、中々出来ることではないのは認めよう」
おっ、なんか認めてくれたな。
やったぜ!
そこは素直に喜ぶんですね……?
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




