1945話 チェーンバ
俺が空中にいることの弱さを指摘してきたが、それを言ってきたやつは片手で数えきれるくらいしかいない。
流石は【ランゼルート】だな。
だが、俺だって無策で空中に逃げたわけじゃない。
さっきから呼んでた甲斐があるってものだ!
「【濛々たる合巣蜂】……いや、【チェーンバ】か。
また懲りずに僕の前に顔を出すとはいい度胸だね」
俺の背後から現れたのは【濛々たる合巣蜂】だ。
【ランゼルート】が呼んだのは……こいつの名前か?
次からは俺も【チェーンバ】と呼ぼう。
どうやら【ランゼルート】は戦ったことがある相手のようで、お互いに敵意を剥き出しにしている。
【チェーンバ】は俺にくっつけていた群体から交信し続けて、【ランゼルート】との決戦が近いことを告げたら向かってきてくれたわけだ。
これまで手伝ってくれなかったのは、本命である【ランゼルート】と戦うまでリソースの消耗を抑えたかったからだろうな。
「どういうことか【チェーンバ】は僕と戦った記憶を保持したままここにいるようだね。
聖剣次元で一度倒したというのに……【山伏権現】の差し金ということだろうね?
それほど僕の聖剣次元を一位に返り咲かせたくないようだね、参ったよ」
【ランゼルート】は【チェーンバ】の様子から色々と察したようだった。
まぁ、見え透いた意図だから俺だって気づいたけど。
【ЧЧЧЧЧ!!!!】
【チェーンバ】はそんな【ランゼルート】に対して群体の蜂たちを次々に差し向けていった。
群れとなり飛翔する蜂たちを見て【ランゼルート】は聖剣を振……
……ってないな。
聖剣じゃなくて手を向けて口を開こうとしていた。
気をつけろ何かスキルを使ってくるぞ!
「ご明察だね。
数で向かってくるなら僕も数を増やして迎え撃とうかな?
スキル発動!【戌亥北火】!」
【ランゼルート】が使ってきたのは方位系聖獣スキルの【戌亥北火】だった。
それによって炎の狼と猪が生み出され、蜂たちへと向かっていったぞ!
だが、前に見た時よりもサイズ感が一回り小さくなってるな……?
「やっぱり円卓が汚されたのが手痛いね。
……聖獣の力が弱まってしまっているようだよ。
とはいえ、それでも【チェーンバ】にはこれが一番効くはずさ」
【ランゼルート】の言うように、蜂たちは次々に炎の狼と猪に燃やされていっている。
ただ、一応は抵抗しているようで少しずつだが炎の勢いが収まりつつある。
全てを投げ捨てたらこの【戌亥北火】を抑えられるだろうが、それを待っていたら流石に勿体なさすぎる。
そう思っていると遠くから声が響きはじめた。
「ケケッ、待たせたんだぞ!
見ない間に【濛々たる合巣蜂】が参戦してて驚いたが、それでも不利みたいなんだぞ!
それならおれの出番なんだぞ!
スキル発動!【毒晶海眼】!」
【牛乳パフェ】が配置につけたようで、そこから望遠鏡を使って遠距離支援をし始めてくれたようだ。
今使ってきた【毒晶海眼】で炎の狼と猪の炎が結晶化していき、その部分が動かなくなったようだ。
【牛乳パフェ】め、あんな便利そうなスキルまで隠し持っていたのか。
【アイシア】戦でも使ってくれたら良かったものを……
だが、そのお陰で群体の蜂たちが競り合えるようになったのでここからが本当の勝負になる。
……まぁ、このまま【ランゼルート】が大人しくしてくれていたらの話だけど。
「【戌亥北火】だけで勝てるなら動く必要はないかと思っていたけどそう上手くはいかないみたいだね。
やっぱりMVPプレイヤーが相手にいると相性だけでは測れないものがあるよ」
相性を覆すのがプレイスキルだからな。
それぞれ持つもの、積み重ねてきたものが力となるわけだ!
お前を好き勝手やらせないくらいには俺も【牛乳パフェ】もその辺りを磨いてきてるんだぞ?
「それは分かっているつもりだったんだけど……それでも毎回驚かされてしまうよ。
スペックでは明らかに劣っているはずの君たちが僕の【正義】の前に立ち塞がることを厄介に思うくらいにはね」
【大罪魔】相手に共闘もしていたし、ただ敵対していた時よりもMVPプレイヤーたちの強みというものをAIとして学習したのだろう。
侮る気持ちこそ隠しきれていないが、それでも認めている部分もあるのが伝わってくる。
「その上で僕の【正義】を為す邪魔をし続けるなら断罪しないとね。
多くを救うために僕はこんなところで躓くわけにはいかないんだ!」
【ランゼルート】には【ランゼルート】なりの事情があるようで、瞳から伝わってくる熱量は凄まじい。
あの貪欲さが【ランゼルート】の今の強さになるのを支え続けてきたんだろうなぁ……
何を呑気なことを言っているのですか?
劣化天子はその強さに呑まれてはダメですよ。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




