1935話 シゼンゼプラの習性
望遠鏡次元の【風来の勇者】……【シゼンゼプラ】と無事合流出来たわけだが、すぐに立ち去ってしまいそうになるというトラブルを何とか回避して一緒に移動できることになった。
本当にどうなるかハラハラしたんだからな?
お前のところの次元の勇者なんだからもっと手綱を握っておけよなっ!
「ウゲゲッ、そんなこと言われてもおれには無理なんだぞ……
拘束しようとしても有り余る力で拘束を無理矢理破ってくるし、興味がありそうなもので惹き付けようとしても次の瞬間には急に興味を失って旅に出ようとするんだぞ……」
それは嫌すぎるな。
「拙者の宿業、abilityのことを考えても一つのところに留まり続けるのはあまり良くない。
常に流離い続けることこそが来るべき戦いに向けての備えになり、望遠鏡次元の底辺種族たちを導くことにも繋がるのだ」
……と、【シゼンゼプラ】が言っているわけだが俺にはあまり理解できない。
同じ望遠鏡次元の【牛乳パフェ】なら分かるか?
「ケケッ、おれは事情を知っているんだぞ!
【シゼンゼプラ】の宿業はさっきワールドアナウンスが流れているのを聞いたから知っていると思うが、その中にあった【流浪の宿業を刻まれた勇ましき者は】という部分と 【流れ征くモノの末路を理解しながらも】と【その歩みを止めないのだ!】という3つの部分で移動を半強制されているんだぞ!
つまり、ある程度の期間移動をしていないとその時間に応じて宿業違反によるデバフがかかってしまうんだぞ……」
あー、【キズマイナ】が深淵種族と敵対せずに一緒に居続けるとデバフがかかってしまう現象と同じやつか。
しかも3つの宿業で縛られているって相当厳しいな!?
「その反面、移動さえ続けていればその3つに違反することはない!
それに旅は拙者の性分にも合っているからこそ、苦にもならないわけだ」
まぁ、基本的には宿業は種族的な縛りを除くと本人のこれまでの行動に応じて刻み込まれるわけだからな。
これまで通りのことをしていれば違反することはないということだろう。
……つまり、【シゼンゼプラ】はそれくらい【勇者】として顕現するまでに旅にのめり込んでいたわけだ。
「ケケッ、こいつが【勇者】になるまでは一人で旅ばかりしてる変なプレイヤーってある意味有名になってたんだぞ……
まさかあんなタイミングで【勇者】になっておれたちを助けてくれるなんて思わなかったんだぞ!」
へー、そっちでも【勇者】になるまでは普通に他のプレイヤーと同じように生活していたのか。
こっちの【勇者】も似たような感じだったぞ!
何なら俺のクランメンバーだったし。
「ウゲゲッ、お前のところの【勇者】はクランメンバーだったのか!?
それは同じ状況におれがいたらかなりビビってたと思うんだぞ……
でも【シゼンゼプラ】はクランにも入らず本当に一人だけで行動してたから、『あー、あいつか……』みたいな薄い反応をしているプレイヤーも多かったんだぞ!」
そりゃ他のプレイヤーとの関わりが薄ければ、【勇者】になったとしてもインパクトは少ないだろう。
むしろ知らないやつも多いだろうし、急に【勇者】が現れた……!
……みたいに思ってるやつもいそうだな。
「ケケッ、実際にそれはいたんだぞ!
おれの体感だと……変なプレイヤーがいつの間にか勇者になってたって認識のやつが6割、急に勇者が現れたと思ってるやつが3.5割、知り合いで驚いてたやつが0.5割みたいな感じだぞ!」
うわっ、それはニッチ過ぎるな……
とはいえうちの【キズマイナ】も引きこもりプレイヤーだったから、認知度はそこまで高く無かった。
悪名高い俺のクランに入ってからは、つられて知名度も上がっていったみたいだけど。
「ケケッ、【勇者】は世捨人みたいなやつが多いのか?
判断材料が少ないから結論が出せないのが妙にもどかしいんだぞ……」
それは自分のところだけが変なやつじゃないという証明を心がしたがっているからだろうな。
変人を抱えているのが自分だけだと思いたくないんだろうよ。
「拙者はそこまで変ではないとは思うのだが……?」
変なやつっていうのは自覚が無かったりするんだよ。
それをあなたが言うのですね……?
全く、これだから劣化天子は……
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