1931話 乖離する怪殻蟬
【アイシア】の大技で【つくだ兄ぃ】が首チョンパされてしまったので、こちら側に残っているのは遠距離攻撃担当の【牛乳パフェ】、近接戦闘担当の【マックス】、逃亡防止対策担当の【槌鍛冶士】、そして遊撃担当の俺だ。
数の上ではかなり有利なはずなんだが、向こうが逃げるという選択肢を最優先でとりたがっているのもあり【槌鍛冶士】が戦闘に参加できなくなっているのが辛いところだ。
【アイシア】にとっても、ここから【ランゼルート】に合流して一緒に戦えた方が好都合みたいだし、俺たちにとっても【ランゼルート】と【アイシア】が揃ってしまうと勝ち目がなくなってしまうから合流は最優先で防がないといけないぞ!
……とか考えていたら唐突に無機質な声のアナウンスが鳴り響きはじめた。
【ワールドアナウンス】
【レイドクエスト【咽び哭く怪殻蟬】が【ランゼルート】によってクリアされました】
【聖剣次元のプレイヤーにスキル【咽哭殻蟬】が開放されました】
【今回の次元戦争で【ランゼルート】へのボーナスが加算されます】
「流石は【ランゼルート】!
私たちの期待に応えてくれました!
これで私がここで時間稼ぎをしていた役割も終わったわけです。
……とはいえ、そこの森人のせいで逃げられないわけですが」
なっ!?
【アイシア】は時間稼ぎのためにここで戦い続けていたのか!
道理で俺と戦っていたときも大人しく俺の時間稼ぎに付き合ってくれていたわけだ。
流石にそれは読めてなかったぞ……
まさか【ランゼルート】がレイドボスを倒すまでの繋ぎだったとはな!
俺が群体の蜂たちを従属させている間に【ランゼルート】は討伐の方向へ舵を切っていたわけだ。
「ウゲゲッ、忍び込んでいた深淵種族は複数いた!?
これは想定外なんだぞ!」
それ自体も驚きだよな……
出現のアナウンスは一回だけだったから俺が見つけたやつだけだと思い込んでいたのだが、まさか一回のアナウンスで二体も出現していたなんて。
「私もあなたがレイドボスを見つけ、従属させたアナウンスを聞いたときには驚きましたよ。
まさか討伐とは別種類の称号が手に入るなんて知りませんでした」
あー、なんか従属させた方のアナウンスは称号でバレてたのか。
隠し球にはならないわけだが、どうやって従属させたのか流出しなければ最低限なんとかなるだろうよ。
「これでそちらはプレイヤーを一人失い、【ランゼルート】はレイドボスの討伐によってボーナスを得ました。
戦況は私たちに傾いていますよ、これでも戦いを続けますか?」
あぁ、続ける!
というかここでお前を逃がしたらもう取り返しがつかないことになるだろう。
スキル発動!【魚尾砲撃】!
俺は極太レーザーで攻撃を仕掛けていった。
【マックス】が近接戦闘をしているのであくまでも相手の集中力を削ぐための牽制程度にしかならないはずだが、それでもやらないよりはマシだ。
「あなたは先ほどから絶妙に鬱陶しいタイミングで、して欲しくない妨害をしてきますね……
次はあなたを倒しましょうか。
スキル発動!【緑翠刃翡】!」
またそれかよ!
さきほど【つくだ兄ぃ】を葬り去ったものと同じスキルを使ってきたが……今度は俺がピンチなのか!?
「……スキル発動、【最大萌芽】」
そう思っていたところに近接戦闘中の【マックス】が助け船を出してくれたようで、【アイシア】が放った緑色の刃を巨大な芽で包み込んで止めてくれたぞ!
……ふぅ、命拾いしたな。
「安心しているところ申し訳ないですがこれが狙いです。
私の目の前で隙を見せましたね?
スキル発動!【緑王絶対封印】!」
「……っっっっ!?!?!?」
俺を守るために最前線で攻撃をしていた【マックス】の攻め手が緩んだのを確認した【アイシア】はこっちが本命と断言して緑色と金色の蔓の鎖を放ってきた。
標的は……【マックス】だ!
「ウゲゲッ、【マックス】の力がどんどん封印されているんだぞ!?
このままだと死に戻りするんだぞ!?」
「ガハハ!!!
あれはもう助からんわ!!!
【包丁戦士】、分かっておるな!!!」
あぁ、スキル発動!【塞百足壁】!
隙を突いて【マックス】をしとめたようだが、それで逆に隙が生まれた【アイシア】を標的に黒壁を生み出し腕を拘束し……
その腕を切り落としていった!
「くっ、杖が地面に!?」
「ガハハ!!!
その鍵杖は返さんぞ!!!
スキル発動!【鉄血樹庫】」
【アイシア】の手から離れた鍵杖はそのまま【槌鍛冶士】によって鉄の樹木庫へとしまわれていった。
この攻防で向こうの武器と片腕を失わせることに成功できたのはデカイぞ!?
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】