1926話 蔓玉
「ケケッ、【つくだ兄ぃ】助かったんだぞ……!
その枯草は触れたら身体が干からびていって枯草のようになってしまうんだぞ……」
「これはそんなに恐ろしいものだったのですね。
触れずに【貧困採集】で取り込むことが出来て良かったです」
【つくだ兄ぃ】によるファインプレーによって一命を取り留めた【牛乳パフェ】は安堵しているようだ。
それにしても戦闘要員じゃないと思っていた【つくだ兄ぃ】がこんな活躍をするなんて思ってもみなかったぞ。
「……あちらを遠隔で狙うのは難しいようですね。
もう少し近ければタモ網で捕らえきれない量や質の蔓で攻めることが出来ますが……あそこまで近づくまでにそもそもあなたが邪魔ですから」
そういうこった!
そう言われてこそ前衛としての役割を全うしているわけだ。
回避タンクとしての役割を果たしつつ、後衛の【牛乳パフェ】がきちんと活躍できるタイミングを作ってやる必要があるのだ!
「そうさせないように私の力を発揮する必要があるわけですが……生憎森人は戦いに不向きな種族です。
【上位権限】の圧倒的リソース量があったとしてもそこの点は変わりません」
だろうな。
俺のいる包丁次元の【上位権限】レイドボスの森人も同じことを言っていたからな。
なんと言うか、性格や戦い方からしても向いてないよな。
優しさ……というか甘さがあるし。
俺がそう指摘すると【アイシア】はギクリとした表情を浮かべていた。
「私の甘さ……っ!
あなたに指摘される筋合いはないのですが!」
その反応からして図星なんだろう。
森人という立場でいる以上、その宿業から逃れられないのを分かっていてそれをどうしようもない焦燥感……みたいなものがあるんだな。
【槌鍛冶士】も似たようなこと言ってたし。
「知ったようなことを言い回す口をそろそろ止めたいところです。
……スキル発動!【緑王玉来】!」
【アイシア】がスキルの発動を宣言すると、その身体の周りに蔓玉のようなものが3つほど生み出され、それが宙をグルグルと回りはじめた。
これまでの蔓を鎖にして伸ばしてくるものとは異なる趣向だが、怒りや焦りがあるなかで使ってきたということはあの見た目で攻撃力が高めなスキルなのだと予想できる。
激昂したやつが感情的に使ってくるスキルなんて攻撃的なものだと相場が決まっているからな!
そして案の定といったところか。
その蔓玉たちが俺へ向かって飛んできている。
俺もルル様の漆黒の翼を使って逃げ回っているのだが、厄介なことにこの蔓玉たちは追尾性能があるようで逃げても逃げても追いかけてくるのだ!
質でも量でもなく、確実性で攻めてきたということか……
とりあえず壁でも貼って様子を見てみるか!
スキル発動!【塞百足壁】!
俺は漆黒の壁を作り出して蔓玉の進路を塞ごうと試みてみたが……
普通に無視して進路変更して俺へと向かってきた。
壁が壁としての役割を果たしてくれないのかよ!
そこまで高性能な追尾機能があるのはめちゃくちゃ厄介だぞ……っ!
「どこまで逃げきれるのか見物ですね。
高度な追尾性能なのは見て分かるでしょう?
壁や建物に隠れてやり過ごそうなど考えても無駄ですよ」
ちっ、俺の考えが見透かされていたようだ。
そういう戦い方が得意なんだがそれを封じられるとちょっときつい。
この蔓玉が当たるとどんなことになるのかは分からないのも怖いよな。
ただ単純にダメージを受けるだけなのか、追加効果が含まれているのかでも厄介度が変わってくるが、それは当たってみないと分からないしそれで死に戻りしてしまったら元も子もないので当たってやるわけにはいかないのだ!
スキル発動!【堕枝深淵】!
俺は再び黒色の茨を出して蔓玉を掴み取ろうとしたが……
これも躱されるか!?
今度は壁を出したわけじゃないし進路を塞ごうとしたわけでもないのに、これでもダメだったか……
つまり、進路を塞ぐことが回避されるための条件じゃないってことが分かったわけだが、それを活かす状況を作るにはまた距離を離すために逃げ回らないといけないな!?
くそっ、今回の戦闘は本当に防いだり逃げ回ったりしてるだけだぞ……
「この【緑王玉来】から逃げられると思わない方がいいですよ。
大方スキルの効果時間切れでも狙いはじめたのだと思いますが、普段ならともかく今の私が使うことによって時間制限すら解除されています。
つまり、あなたに当たるまで延々と追い続けるということです!
いい加減往生際が悪いですよ、諦めなさい!」
往生際が悪いのは俺の特技みたいなものだ、褒め言葉として受け取っておこう。
そして諦めるつもりもないからな!
絶対に攻略してみせる!
さて、どのように攻略するのやら。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




