1917話 驚きと当然
「これは……本当に何が起きたのか理解できませんよ……」
狼狽している【つくだ兄ぃ】を横目に俺は【濛々たる合巣蜂】のいる方向をじっと見つめていく。
その目に敵意がないことから、完全に俺の指揮下に入ったということだろうな。
実際に俺を歓迎するかのように群体の蜂たちが俺を取り囲んできている。
襲うというよりは守るため……って印象だ。
上位者である俺への接待も兼ねているんだろうよ。
俺は【深淵域の管理者】……つまり深淵種族の【上位権限】レイドボスってわけだし。
「つまり、【包丁戦士】さんは【濛々たる合巣蜂】を従属させたということですか?
あんなにあっさりと?」
あぁ、これまでも野良の深淵種族レイドボスなら何度か調伏してきたし、今回も出来ると思っていた。
深淵種族メタが深淵種族プレイヤーというのも皮肉な話だが、今の俺は深淵種族レイドボス相手ならわりと相手をしやすいのだ!
しかも敵意がほとんどない相手ならなおのことだな。
これが敵意剥き出しの相手だったらほぼ倒す寸前まで追い詰めないと今やったのと同じことは出来ないから、今のタイミングで味方につけることはできず逆に俺たちがピンチに陥っていたことだろう。
「それは中々の博打ですね。
……というよりその口ぶりからすると、敵意のある相手にも同様の行為をしたようですね。
包丁次元での【包丁戦士】さんの活躍はかなり見ごたえがありそうな気がしてきました」
そうか?
俺からしてみると勝率の高い賭けくらいの認識だったけどな。
だって【つくだ兄ぃ】が蜂たちの敵意を持たせないように道中色々と俺に助言してくれていたからだ。
それを忠実に守ってきたからこそ目の前に行っても警戒はされたが、最後まで敵意は持たれなかったぞ!
お前の活躍があったからこそ、堂々としていれたというわけだ。
「お、お褒めに預かり光栄です……
【包丁戦士】さんの距離の詰め方は心臓に悪いですよ、本当に……
ですが、私の知識が活かされたというのならゲームの中とはいえ生物学者としての誇りに思えます。
もう今回の次元戦争でこのまま死に戻りしてもいいほど満足感に満ちていますね」
お前も凄い感覚してるぞ?
「それはそれとして【濛々たる合巣蜂】を味方につけたのはいいですが、それでいったい何をするおつもりでしょうか?」
ここでそれを聞くのか……
もっと前にこれを聞くタイミングなんていくらでもあっただろうに。
「とんでもないですよ。
味方につけるのは流石に想定範囲外です。
討伐して何かを得るのか、素材集めのためか、キークエストのようなものを受注しているのかくらいしか考えていませんでしたね」
わりとゲーム的な考え方もしっかりできてる生物学者だな!
ガッツリゲーマーの解答じゃないか!
「これでも昔はそれなりにゲームを嗜んでいましたからね。
最近はコメンテーターとしても忙しくなったので遊んでいるゲームはボトムダウンオンライン一本ですが……」
それなら納得だ。
それを答えてくれたし、俺が【濛々たる合巣蜂】を手懐けてやりたいことを話しておこう。
まず最終目標としては聖剣次元のMVPプレイヤーである【ランゼルート】の打倒だ。
ぶっちゃけ包丁次元、蛇腹剣次元、望遠鏡次元が手を組んだとしても倒すのが困難な相手だ。
だからこそ、レイドボスという存在がいるなら味方にして【ランゼルート】にぶつけたいという考えに至ったというわけだな!
「【牛乳パフェ】さんも【ランゼルート】相手には特に気をつけてようと言っていましたからね。
本来一位である包丁次元を警戒すべきはずなのに、あえてそこですからね」
参加するメンバーとしては違和感があるのだろう。
だが、MVPプレイヤー視点だと【牛乳パフェ】の考え方には納得するしかない。
吹けば飛ぶような俺よりも、潤沢なリソースを保有し身体スペックも超一流で戦闘技術は剣豪も真っ青になるほどの存在である【ランゼルート】を警戒すべきなのは自明の理だ。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




