1914話 二択
「思ったより歩かされますね……
これ以上離れていくとどんどん角度によるブレが大きくなっていくので、私が計測を間違えていた場合には目標地点から違うところに到着してしまう可能性が高まってきてしまいます。
なので、ここで計測に戻るかあえてこのまま進むのかを【包丁戦士】さんに決めてもらいましょう。
私はどちらでもやりますよ」
おおぅ……急に選択肢を提示してきたな!?
一応俺への配慮なのと、もし違ったときのために保険をかけているということなんだろうが……
悩ましいな。
このまま進んで時間が無駄になる可能性と最短で見つけられる可能性を取るか、戻って記録を取り直して時間をかけて確実性を上げるかだからな!
どちらもありではあるんだが……
いや、このまま進もう!
このルートも当てずっぽうってわけじゃないし、お前もある程度の誤差は脳内で補正できるだろ?
それくらい出来るくらいのプレイヤーだと見込んでいるが……買いかぶり過ぎか?
「……貴女は随分と人たらしですね。
そこまで言われてしまったら全力で頭と感覚を冴えさせていかないとダメになってしまいますよ。
はじめて会った人にここまで信頼されるのは中々新鮮な体験ですが、悪くない感じです。
悪辣だと言われていても、包丁次元のMVPプレイヤーとして選出され続けているのにも納得できます」
それは俺を誉めてるのか貶しているのか……と言いたいところだが周囲からの伝聞評価と実際に見た評価を比較して俺を誉めてくれているんだろうな。
コイツからは終始悪意のようなものは全く感じないし、純粋に誉めているということを認めるしかない。
これくらい害意のない存在だからこそ、気配を消して生物にも気づかれないような行動が可能なんだろうなぁ……
「それではこのまま進んでいきましょうか。
ただ、建物の並び方から誤差が発生しそうなところは都度確認していく方針でいいですか?」
【つくだ兄ぃ】が俺に確認を取ってきたが特に異論はない。
どうせ俺だけで探していたら片っ端から探すことになっていたんだからな!
多少探し回ったとしても本来の予定よりも時間が短縮されているので全く問題ないというわけだ!
「承知いたしました。
それではこのまま進みましょうか。
ここからは蛇行に近いかたちですが周囲の警戒は【包丁戦士】さんにお任せします。
【牛乳パフェ】さんから【包丁戦士】さんはそういうことが得意だと聞いていたので」
【牛乳パフェ】のやつ……結構俺の情報を味方に垂れ流してるな!?
明らかに戦闘要員じゃないと思われる【つくだ兄ぃ】にまでそのレベルの情報を与えているということは、俺が過去に話したことや見せたことについてはあらかた共有されてしまっていると考えた方が良さそうだ。
流石は頭脳派プレイヤーがMVPプレイヤーの次元ということもあって、考えて勝たせようとしているのが窺えるな。
「……この周辺で一瞬蜂の姿を見つけました。
ということは経路としては間違っていないかもしれません。
本体まで近いかどうかは分かりませんが、このままの方針で調査を進めていいということでしょう」
【つくだ兄ぃ】は進行方向で蜂を見かけたようで、それを見て俺たちがこのまま進んでいいということを確信したようだ。
ちなみに何をしている蜂だったんだ?
「おそらくは……ですが、集めた餌を巣へ持ち帰る最中の蜂でしょうね。
あれを直接追えたらすぐに見つけられたでしょうがすぐに見失ってしまいました。
ですが、逃げていった方向は分かったのでさらに時短が出来そうです」
帰巣途中の蜂だったか……
それだったら少なくともその先のルートのどこかに本体がいるだろうし、より確実な手がかりと言えるだろう。
ここまでわりと順調に進んできているから肩透かしをくらっている気分になるが、それは【つくだ兄ぃ】による先導があったからだろう。
やはりコイツ、今回がピンポイント過ぎるだけかもしれないがかなり使えるやつだよな!
もしかしたら普段のレイドボス調査にもその生物学者としての知識を活かして貢献しているかもしれないと考えたら、こいつから感じられる覇気以上に貴重な人材かもしれないな。
優秀な人材は得難いものですよ。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




