1913話 蜂の踊りを見たことはあるか?
というわけでひょんなことから望遠鏡次元のプレイヤー【つくだ兄ぃ】と同行してレイドボスの【濛々たる合巣蜂】の大元を探すことになった。
俺のやることは特に変わっていないので結果オーライだな!
「この蜂は現実にいる蜂の動きをある程度踏襲しているようですね。
見てください、八の字ダンスです」
【つくだ兄ぃ】に促されて群体の蜂の行動パターンを確認してみると確かに八の字を描くようにして飛び回っていることに気がついた。
あれはいったいどんな行動なんだ?
生物学者なら知ってるんだろ?
「そうですね。
簡単に言ってしまうならば餌の位置を仲間に知らせるための行動です。
巣から見て、太陽の方向とエサ場の方向は時計回りに45°の角度をなしています。
つまり、あの八の字ダンスの動きを監視して正確な動きを記録できれば本体のいる場所が分かるというわけです」
おおっ、さっそく大活躍じゃないか!
もはや正解を言い当てたようなものだからな!
有能すぎるだろ……
望遠鏡次元はこんなやつまで有していたとは、やはり頭脳派なプレイヤーが他にも多そうだな!?
「今回も記録する筆記用具と紙は持ち歩いているのでしばらく透かしながらトレースさせてもらいます。
その間行動に何か変化がありましたら教えてください」
完全に俺のことを助手か何かのように扱い始めているんだが、このまま大人しく従っておこう。
今、この場において主導権を握っているのはこいつの方だからな……
例え今キルしたとしても何も成果を得られないんだし、最後まで付き合っておくのが吉だ。
そうしてしばらく【つくだ兄ぃ】の記録を見ているが、デッサンというよりは蜂の軌道に特化した記録のようだ。
蜂たちも毎回正確に同じ軌道で移動するわけじゃないので、八の字といってもかなりムラがあるみたいだ。
だからこそ何回も何回も記録を取ることでその中央値を割り出そうとしているわけだな!
根気のいる作業だが、誤差を可能な限り無くすためには必要なのだろうよ。
「これくらいで一旦終わりにしておきますか。
ある程度の範囲まで絞れたと思いますので、あとは実地まで歩いてその誤差の確認をしてみましょう。
どれくらいこの記録に意味があったのかを知れるだけでも今後に活かせるかもしれませんね」
それならさっそく向かってみるか……
【つくだ兄ぃ】と俺は建物を避けながら割り出した方向へと向かっているわけだが、その最中に気になったことを聞いてみることにした。
お前から見て、あの蜂たちは何を餌としていて何に活用しようとしているか分かったか?
「そうですね……
おそらくはこの周辺に漂っている黒色の霧が餌でしょうか?
蜂たちが空中で時々止まりながら集めているような動作をしていましたからね。
これは現実の蜂では見られないものでしたが、八の字ダンスをしていたということから逆算して黒色の霧そのものが餌であると判断しました。
そして、黒色の霧を集めて何をしようとしているのかですが……これは分かりませんでした。
あの蜂たちがそのままリソースとして活用している可能性もありますし、本体のいるところや巣のあるところまで運んでそこで活用している可能性もあります。
少なくともさっき観察していた際には判別出来ませんでしたよ」
おぉぅ……中々の早口で解説してきたな!?
やはりオタク気質もあるのか、好きなことになると随分と口が回るらしい。
コミュニケーション能力を改善したと言っていたが、この辺りは元々の気質の影響もありそうだ。
あと、黒い霧が餌なのは包丁次元メンバーで意図的にその状況を作り出して、実際に蜂が来た時点でまぁ正直知ってたけど念のため聞いてみた感じだ。
生物学者特有の視点もあるかもしれないと思ってな。
その先のことについても、この場では【つくだ兄ぃ】も分からないみたいなのでやはり八の字ダンスの記録によって導き出された場所へと向かってみるしかないのには変わらないらしい。
ゲームの世界と現実では差異も結構あるし、その辺りは仕方ないだろう。
俺だってゲームの世界の遺跡と現実の遺跡の違いで何度か辛酸を嘗めさせられているからな……
先入観だけで語って正解を導き出すのは危険だと理解している辺り、【つくだ兄ぃ】も相当その分野に精通しているのだと感じたぞ!
何事も経験が必要だということです。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




