1910話 群体タイプ
「さて、笛は吹いてみましたがこれで変化がどう起きるかですねぇぇ……
最悪全く無反応ということも考えられますけどぉぉ!」
【キズマイナ】はそう言っているが、俺の予想だと必ず食いついてくるはずだ。
陰湿と呼ばれがちな深淵種族だが、流石にこれほどおおっぴらに撒き散らされたリソースに食いつかないほど奥手ではない。
それは色々な深淵種族と触れあってきた俺だからこそ分かることなのかもしれないな……
「そうですねぇぇ!
あてぃしも【ファイヌル】さんとは長く関わって来ましたけど、他の深淵種族についてはあんまり詳しくないですからねぇぇ!」
「ガハハ!!!
ワシも同じくだな!!!
かつての陣営対戦の時もワシは基本的に傍観者の立ち位置で離れておったから敵対者としても関わることがほとんど無かったのだ!!!」
そうだよな……
深淵種族といえばこのゲーム的にも敵役の扱いを明確にされていて、種族転生も推奨されてないからな。
王道の聖獣、獣人とは正反対な立ち位置だからこそ多くの種族からの嫌われものになっていて、関わりもないわけだ。
と、そんなことを考えていたらようやくおいでなすったな?
羽音が聞こえてきたから飛行系のモンスターのようだが……
【Raid Battle!】
【濛々たる合巣蜂】
【レイドバトルを開始します】
しかもレイドボスか!
まだ姿は見えないがレイドアナウンスが聞こえてきたということはかなり近くまで来ているはずだ。
このまま待ち受けて向こう側の出方を窺おうか。
「ふひひっ、蜂ですかぁぁ……
攻撃的な印象があるので平和的な交渉が出来るか今から不安なんですけどぉぉ……」
【キズマイナ】はレイドアナウンスから読み取れたレイドクエスト名の【濛々たる合巣蜂】から蜂型のレイドボスだと判断して物凄く警戒しているようだ。
だが、真っ先に狙われるのはお前だと思うから頑張ってくれよ?
「ええっ、何でですかぁぁ!?」
そりゃ、だってお前が呼び出したんだし、この辺りの深淵の黒い霧にはお前の力が染み込んでいるからな……
その大元であるお前がリソース源として狙われるというのは道理じゃないか?
「ふひひっ、もしかして【包丁戦士】さんはあてぃしを嵌めましたかぁぁ!?
【包丁戦士】さんも演奏は出来たはずなのにしませんでしたよねぇぇ!」
いや、それは自業自得じゃないか?
むしろお前が真っ先に笛で演奏準備を始めたから俺が慌ててメガホンを添えていたんだからな。
ちゃんと話し合っていたら俺が演奏していた可能性も……あったかもな?
まぁ、過ぎてしまったことなので実際はどうなったか分からないけど。
「ガハハ!!!
ここまできて仲間割れなんぞするな!!!
死なばもろともだぞ!!!」
【槌鍛冶士】が仲を取り持とうとしてきたな。
俺たちを案じてのことだろうが……
それは杞憂だぞ!
「「死ぬつもりはない」ですからねぇぇ!」
「ガハハ!!!
そっちを気にしたわけではないのだが!!!
……それだけ息が合っていればワシの心配も杞憂であろうな!!!」
まぁ、【キズマイナ】も俺もその気遣いは分かった上であえてこの返答をしているんだけどな。
【槌鍛冶士】にはこの様子を見せた方が安心するとお互いに察したからこその行動だな。
「ふひひっ、少し待ってみましたけど一向に姿が見えませんねぇぇ!
おかしいですねぇぇ……」
【キズマイナ】は不思議がっているが、俺には分かる。
この辺り一帯に【濛々たる合巣蜂】はいるのだ!
「どういうことですかぁぁ?
姿が見えないのにいるなんてあり得るんですかぁぁ?」
「ガハハ!!!
ワシにも分からんな!!!」
それなら教えてやろう。
……スキル発動、【儡蜘蛛糸】!
俺が手のひらから蜘蛛糸を出すと、とある存在へと接着していった。
それを引き寄せると……
「ふひひっ、これは……蜂ですかぁぁ!?
こんなに小さい存在がレイドボスなんですかぁぁ?
一般生物とほとんど変わらないサイズじゃないですかぁぁ!」
そう、見た目は現実世界にもよくいる蜂とほぼ似たようなものだった。
これまでのレイドボスは見た目が似ていたとしてもサイズ感だけは五メートルくらいあったりと不気味なものだったが、この蜂は手のひらよりも小さいのだ。
「ガハハ!!!
これは中々珍しいな!!!
ワシらのような人型レイドボスのようなタイプとも違うぞ!!!
これは群体タイプのレイドボスだ!!!
ワシも過去に一度見たことがあるから、実物を見て納得したな!!!」
群体タイプのレイドボス!?
そんなのもいるのか……
はじめて知ったな!?
ガハハ!!!
いるぞ!!!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】