1909話 可能性の広がりと霧の広がり
「それではさっそくあてぃしの演奏で【槌鍛冶士】さんの発明の完成度を確かめさせてもらいますよぉぉ!
スキル発動!【堕音深笛】ですぅぅ!」
【槌鍛冶士】の発明品のメガホンを【キズマイナ】の骨笛の笛口付近に俺が手で持ちながら、【キズマイナ】は演奏を開始し始めた。
すると音色が……
いや、普通に聞こえるんだが!?
これは音が筒抜けになってるし、珍しく作るのを失敗してしまったんじゃないか?
俺がそう思って【槌鍛冶士】に問いかけてみると……
「ガハハ!!!
それはお前が深淵の力を取り込んでいるからだろう!!!
特にお前は【深淵域の管理者】でもあるわけだからな!!!
このメガホンで音色が聞こえる範囲内だろう!!!」
「あてぃしも普通に聞こえますがぁぁ?」
「お前も深淵細胞を取り込んでいるだろう!!!
それは十分に深淵種族に由来するものだからな!!!
体内で馴染んでいるということは深淵種族に親和性が高いという証拠、当然音色も聞こえるだろう!!!
ちなみにワシには全く聞こえないようになってるぞ!!!」
つまり、現状このメガホンの効果は【槌鍛冶士】本人にしか分からないというわけか。
……というか割りと効果範囲がガバガバに広いな!?
てっきり深淵種族の尖兵に特化してると思ってたが。
「流石にこの短時間でそこまでチューニングするのは難しかったからな!!!
それにそこまで範囲を絞れておれば問題あるまい!!!」
確かにな。
手っ取り早く、かつ目的を達成するならそこが落としどころなんだろう。
そして、【キズマイナ】の演奏が進むにつれて深淵の黒い霧が広がっていき周囲に充満し始めたようだ。
いつもなら【キズマイナ】の【堕音深笛】によって生まれた深淵の黒い霧はガシャドクロのような形へと変形していくのだが、今回は深淵種族の尖兵を呼び出すためという目的があるので警戒させないように霧の形態を維持させているみたいだな!
流石笛がチュートリアル武器扱いなだけあって、この辺りの技術は俺よりも上手だ。
「ふひひっ、昔取った杵柄が……というわけですねぇぇ!
最近は笛というよりも剣の柄としての役割の方が増えてきていましたが、こうやって使い道があるのはありがたいですよぉぉ!」
特に深淵の黒い霧を薄く広く伸ばしていく技術には驚かされた。
俺だと周囲に充満させるくらいが限度だが、【キズマイナ】は都市全体へとどんどん広げていっているからな!
これなら音色と霧、両方で深淵種族の尖兵をおびき寄せることが出来ることだろうよ。
「ここまで大規模なのは【勇者】になって得たスペックのお陰でもありますけどねぇぇ!
前までのあてぃしだったら一区画が限度でしたぁぁ!
広げ方は同じことが出来たと思いますけどねぇぇ!」
なるほど。
ここでも【勇者】スペックによる後押しが効いてきているのか。
やはり全体的に莫大な恒常的なバフのような扱いと見ても良さそうだな。
てっきり相性の悪い深淵種族系統のスキルには影響がないか、効果が薄いとも思っていたが……
「確かに相性は他のスキルと比べると良くないのは事実ですよぉぉ!
ですが、それを差し引いても大幅に強化されているのであまり気にしたことはないですねぇぇ!」
全体的な上げ幅が大きいからこそその幅が一部分低くても補えるということか。
相変わらず羨ましいものだ。
外部プレイヤーだと【上位権限】関係のジョブや種族になったとしてもスペックは大して強化されないから、この辺りはβプレイヤーの特権だろう。
「外部プレイヤーは外部プレイヤーで色々な特典がありますからあてぃしとしても羨ましいてますけどねぇぇ!」
「ガハハ!!!
となりの芝は青いというわけだな!!!
ワシもそこは感じることがあるから気持ちは分かるぞ!!!」
【槌鍛冶士】もなのか。
貧弱なスペックを強要されているのでそこは分からないな……
誰だって強くなれた方が嬉しいだろうし。
「確かにそれはそうなんですけど、外部プレイヤーは強さというよりも可能性の広さが魅力的ですからねぇぇ!
あてぃしも底辺種族ではありますけど、実は【包丁戦士】さんが思っているよりは選択肢が狭い中で色々と選んで生きてきましたからぁぁ!」
「ガハハ!!!
ワシにはほとんど選択肢は無かったがな!!!
森人の【上位権限】レイドボスである以上、それから立ち位置を変えられるわけでもなかったからな!!!
だが、お前と会ってからは少しだけ変われた気がするから感謝しておるのだぞ!!!」
そ、そう言われると照れるな……
デレデレじゃないですかぁぁ!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】