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189話 虹色の雨

 障害物がほぼないフィールドで、渋オジサン……【短弓射手】が物凄いスピードで弓を引いている。

 そして、そのスピードで引かれた弓からあたかもガトリングかのように矢が放たれてきた。


 ……草むらからだと発射タイミングが見えなかったから厄介だと思っていたが、見えたら見えたでスピードの圧が重すぎてやりにくいな。

 

 「これについてこれるとは、闘技場イベント優勝者は伊達じゃないみたいだねぇ……?

 オジサン自信無くしちゃうな……」


 自信を無くすとか言ってる割には、無尽蔵に放たれる矢を放つ手を止めないのは抜け目ないな……

 こういう掴み所のない渋いオジサンはこのゲームで今まで相手にすることが無かったから新鮮だ。


 ……だが、何故俺を狙うんだ?

 

 「それはお嬢ちゃん、自分の胸に手を当てて考えてみて欲しいねぇ……」


 俺は誇ることなき薄い胸に手を当ててみる……

 ひんにゅー……?


 「あっ、もしかしてセクハラだったかな……?

 オジサンだからなおのこと通報されやすいから勘弁して欲しいねぇ……

 わざとじゃないよ」


 オジサン特有のセクハラを極端に恐れるやつな。

 今の時代、肩に手をぽんっと置いただけでもセクハラ認定できてしまったりするから高齢のオジサンはなおのこと敏感なんだろう。


 だが、アカウントをここで飛ばしてしまうのは惜しい。

 包丁次元としてこの戦力を消したくないというのもあるが、それ以上に……



 キルしたい!!!!!


 「ひゅうぅ~!

 今のゾクゾクする殺気、お嬢ちゃんが発していいものじゃないねぇ……

 いったいどんな人生を送ったらそんなものが出せるのかな?」


 それは秘密だな。

 プライベートな情報を探るのは厳禁な?


 「ま、これくらいなら言っていいかねぇ……?

 実はオジサン、こう見えても隠しエリアの荒野エリアの攻略をしているんだけど、そこのレイドボス【荒野の自由】からのユニーククエストを受けていてねぇ……

 それがプレイヤーキラーを一定回数倒すっていうものなんだ。

 だからこそ、プレイヤーキラーで悪名高いお嬢ちゃんが来るって思ったここで待ち伏せしていたってわけ」


 なるほどな、レイドボスからのユニーククエストなら精力的に俺を狙ってくるのは分かる。

 何せ俺が頻繁にプレイヤーキラーとして動きすぎて、他のプレイヤーキラーが育ってないからなぁ……

 これは……むしろ俺が配下として育てるべきか?


 お返しにと俺は包丁で矢を捌きつつ、鞭で遠距離攻撃を仕掛けた。

 レイドボスであるジェー素材の鞭だ、じっくり味わうがいい!


 波打つようにしなりながら【短弓射手】へと向かっていく紫色の鞭。


 「おっと、これはオジサンには防げないねぇ……

 素直にかわさせてもらうよ」


 鞭による攻撃をどこかこなれた感じでバックステップと、サイドステップを織り混ぜながら回避していった。

 これは……鞭に近い何かを使うやつがこの渋オジサンの仲間にいるのか?

 どっちにしても、防がれこそしないが見切られてる気がする……


 だが、弓矢の射程と張り合いながら戦うのなら、これ以上遠距離武器は……


 「そろそろネタ切れかねぇ……?

 それなら決めさせてもらおうか。

 スキル発動!【レインボウ】!」


 なんかギャグチックなスキルを発動させた渋オジサンの手元には虹色の光が集まりつつある。

 というか、カタカナスキルかっ!?

 漢字スキルとカタカナスキルの表記の違いもそろそろ気になってきたな……

 このゲーム、あまりにもカタカナ表記のスキルが少ないから露骨に調べろっていう誘導な気がしてならない。


 なんか怖いが、恐ろしいくらい飛んできていた矢の発射が止まった!

 それならチャンスだ!


 俺はスキルのため時間を利用して【短弓射手】へと迫っていく。


 遠距離武器との間合いだったとはいえ、俺もかなり接近していたのと、攻撃が止んでいたので目の前まであっさり来ることができた。


 俺に隙を見せたのが命取りだったなぁ!


 俺は包丁を振りかぶって、渋オジサンの首を刈り取るように軌道を描いていく。


 「だけど、残念だったねぇ……オジサンの方が一歩上手だったみたいだ。

 お嬢ちゃん、【レインボウ】の威力、堪能あれ!」


 俺の包丁が【短弓射手】の首に触れようかといった矢先に、俺の身体は虹色の矢に吹き飛ばされた。


 ぐぉっ!?

 いやっ、これは虹色じゃないっ!?

 矢を放つごとに分裂して七色の矢になってるのかっ!?


 この渋オジサンの乱射スピードで、単純計算七倍の矢が飛んでくるってムリゲーなのでは……?


 俺はそのまま雨のように降ってくる七色の矢に撃ち抜かれて、なすすべなく死に戻りした。







 「やれやれ、中々手強い相手だったねぇ……」


 と、思うじゃん?

 



 「!?」


 俺は不完全な満月を描く斬撃を三連続で放った。

 そして、完全に油断していた【短弓射手】の首、右手首、脇腹を見事に刈り取って光の粒子に変えていく。


 光の粒子に変わっていく際に渋オジサンが俺に問いかけてきた。


 「おかしいねぇ……?

 たしかに死に戻りしたと思ったのだけど」


 ああ、たしかに死に戻りはしたな。


 だが、渋オジサン!

 最近の流行を知らないな?

 俺がレイドボスを倒してこの次元に配布されたスキル、【花上楼閣】だ。


 デメリットも大きいけど、それさえ克服できたならどこでも瞬時に復活できるスキルだ。

 手土産に覚えていくといいだろう。


 「オジサン、流行には弱いからねぇ……

 若い娘のアドバイス、参考にさせてもらうよ」


 そんな歳を感じさせる言葉を残して光の粒子となり、【短弓射手】は消え去った。



 ふぅ、とことん骨が折れるプレイヤーだったな……

 プレイヤーキラーキラーが現れることを想定して、少しは離れたこの辺に【花上楼閣】のセーブポイントを置いておかなかったら、完全に負けてたぞ……











 荒野の自由……ユニーククエストを出すまでになってきましたか……


 【Bottom Down-Online Now loading……】

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― 新着の感想 ―
[良い点] PKの育成を考え始めるとはこれも一種の成長なんでしょうが 包丁戦士みたいなプレイヤーが増えると考えると末恐ろしい [気になる点] 荒野の自由、PKを殺させるならいい存在なのかそれとも天子の…
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