188話 渋オジサン
おらおらおら!!
お前たちの命の輝きっていうのはそんなものか!?
俺は逃げ惑う初心者を追いかけながら、向かってくる初心者を片手間に斬殺していく。
「くっ、狂人め……」
狂人?
生憎それは言われ慣れてるぞ!
はははははは!!!
完全にハイテンション状態になった俺は半分叫び声に近い笑い声を上げながら、包丁を振るっていく。
「見た目は可愛いのになんであんなに狂ってるんだ!?」
「ロリプレイヤーキラーじゃん!
はあはあはあ!!」
違うわ!
俺はロリではない!
……背が低いだけだ。
というかキルされて興奮してる輩がたまにいるのが怖い。
新たな扉を開いてしまった気がするが、気にしたら負けかなと思ってるので全力でスルーだ。
ほら、横凪ぎだ!
「くっ、このゲーム続けたらこんなに動けるようになるものなのか!?
人間業じゃないぞ!?」
その辺にいた初心者モブは流れ作業で切られ、腹部から光の粒子を流出させながら死に戻りした。
まあ、人間じゃないからな。
種族深淵天子だし。
身体スペックも底辺種族から底上げされてるし、リアルスキルとかでどうにかされない限りはついてこれないだろう。
このまま俺が狩り尽くしてやるぞ!
ハハハハハハ!!
ヒュッっ!
……ハ?
俺が高笑いを浮かべながら新たな獲物に襲いかかろうとしていると、足元に矢が飛んできて地面に刺さった。
なんだ……?
俺が唐突に飛んできた矢に驚いていると、次々に矢が飛んできている気配がしたので飛んで回避する。
なんとなくでかわしてみたが、案の定、線を引くかのように矢が地面に刺さってきている。
おいおい、弓はガトリングみたいに乱射するものじゃないだろ!?
これは初心者の犯行じゃない、間違いなく第1、2陣のプレイヤーだ。
ゲームでの動きに慣れ過ぎてるからな……
このゲームの動きは癖が強いから、はじめたばかりでこんなことできるとは思えない。
……ちっ、しつこいぞ!
俺は途切れることなく飛んでくる矢を包丁で切り落としながら、発射元に向かって駆け抜けていく。
こんなやつがいるなかで初心者狩りなんて続けれないから、最優先で排除しなければ!
……どうやら、草むらから射ってきているようだ。
草原エリアってだけあって、草が覆い繁っている場所も多々存在する。
そういった場所は、遠距離攻撃武器をチュートリアル武器として手に入れたプレイヤーの温床となりやすい。
俺が弓とか手に入れたら絶対そこから隠れてプレイヤーキルしてるだろうしな!
姿が見えない相手に、一方的にキルされるプレイヤーを見るのも悪くない!!
俺が草むらに近づくと、距離を取るためにさらに下がっていく謎の弓矢使い。
……下がりながらも矢を放つのを忘れていないのは、熟練プレイヤーというのを裏付けるものだ。
だが、そんな考察をゆっくりしている暇もない。
弾幕のように飛んでくる矢を包丁で打ち落とすので精一杯だ……
そして、追いかけていくうちに草むらの高さが低くなっていく。
さあ、どんなやつが狙ってきてるのか……
その顔を拝んでやろうじゃないか!
俺が草むらから首を伸ばして射手の方をちらっと確認すると、そこには不機嫌そうな顔のおっさんがいた。
おっさんといっても【槌鍛治士】のようにガチムチではなく、よくいる日本のサラリーマン風のやや細身の男だ。
不機嫌そうな表情を浮かべたその顔にはちょっと引いてしまうが、多分あのおっさんのデフォルトの表情なんだろう。
服装は、俺が着ているような少しボロついているマントだ。
この顔には少し見覚えがあるな……どこかで見たような……
あっ、思い出した!
このおっさんは【短弓射手】だ。
隠しエリアである荒野エリアの代表として闘技場イベントの代表戦に出てきていた渋いおっさんだ。
1回戦で【風船飛行士】をあと一歩のところまで追い詰めていたが、惜しくも負けていた。
……あの戦いを見ていた時にも思ったが、ああいう、いかにもデキそうなプレイヤーをキルできたら楽しいだろうなぁ!
「うへぇ、オジサンそんなこと思われてたのねぇ……
ここまでいい歳くってお嬢ちゃんみたいな可愛い娘に思われるってのは悪くないけど、狂気はご遠慮だねぇ……」
露骨に顔をしかめながらも、弓を引くのを止めないオジサンプレイヤーの【短弓射手】。
そんなこと言って、渋オジサンだって俺のことを目当てに来たんだろ?
ただ闘技場イベントの時はマントが茶色だったが、今回は緑色になっている。
明らかにプレイヤーと戦うために、フィールドに合った色のマントに着替えてきたってのがわかる。
前は闘技場の地面が土だったから茶色だったが、今回は草原だから緑色なんだろう。
そして、この次元で今この時、この場所でプレイヤーキラーとして現れる筆頭と言えば俺だからな。
いい歳して女の尻追いかけるのは楽しいか?
「うへぇ、そんなこと言われたのを妻に聞かれた時にはリアルで殺されるねぇ……
尚更ここで始末させてもらうしかないか……
初心者狩りプレイヤーキラーとしての前科があったことを恨むんだねぇ……
オジサン、こう見えて第1陣プレイヤーだからそれなりにやるよ?」
不機嫌そうな表情をしているが、口調は少し軽いな。
だが、言葉の重みはかなりある。
重ねた経験による自信が、俺にプレッシャーを与えているのか……
いいぞ、面白い!
受けてたってやる!
何故、こんなところで貴重なプレイヤーが浪費されているのでしょうか……
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