1862話 底辺種族の末路
「魔王城に入ってみましたけど、本当に内装もおどろおどろしいですねぇぇ!
ここまで外見と一致していて恐怖を感じさせるコンセプトなのは逆に感心しちゃいますねぇぇ!」
【キズマイナ】は魔王城の内装について感心していたようだが、俺たちの作った魔海城船アンサンセも負けてないからな!?
あれも魔王城をイメージして作ったやつだし、俺も意匠については結構口出ししたから自信があるぞ!
「【包丁戦士】さんはトレジャーハンターとして遺跡とかお城とか寺院みたいなところについて詳しいですもんねぇぇ!
それを踏まえた意匠は見事でしたぁぁ!
でも、これはそれと違う迫力がありますよぉぉ!
そういう風に作った……というよりはここは自然とそうなったみたいな凄みを感じますぅぅ!」
言われてみるとそう感じられなくもない。
ただ、その辺の機微はさほど鋭くないから何となくだけどな!
「魔王城があって魔王がいるんじゃなくて、魔王がいてその魔王に合うようになっていったのがこの魔王城みたいですぅぅ!
ただ、城主は不在みたいですけどぉぉ!」
城主が不在?
どういうことだ?
お前も俺みたいに気配察知が得意なタイプだったか?
気配以外でそれを裏づけるような情報なんてここまでで見つかっていたとは思えないんだが……?
「それはそうだと思いますよぉぉ!
あてぃしが聞いているのは死者の声ですからねぇぇ!
【包丁戦士】さんには聞こえないと思いますよぉぉ!」
死者の声?
どういうことだ?
「あてぃしは【墓守の勇者】ですから、そういった死者の残滓を感知する能力に長けているんですぅぅ!
その力で読み取ったものによると、ここの城主が去ってからしばらく経っているみたいですぅぅ!」
城主以外の死者がいたということは、従者とか下僕とか、あるいは魔王に負けた挑戦者とか?
「その中だと従者や奴隷みたいな存在の死者みたいですねぇぇ!
ここに入れたのはゾンビにならずに城主の力を受け止めきれた存在……底辺種族の一派のようですぅぅ!
こんなところにも来ていたんですねぇぇ……」
【キズマイナ】はどこかしみじみした様子で遠い目をしていたが、自分と同族がこんな辺境の地まで昔に訪れていたのを知ったのだから無理もない。
俺だって同じ国に所属していた人が遠くはなれた国に移り住んでいるのをトレジャーハンター活動の最中に見かけたら似たような気持ちになるし……
「咎死人となった同族たちは御愁傷様ですけど、悪影響があるとすぐわかるような力に飛びついたのは流石に失策でしたよぉぉ……
一応、存在としては生き残っているみたいですけど、そこに生命としての軸が残っていないなら無価値以下ですからねぇぇ!」
【キズマイナ】が独白している間に俺はこの魔王城の探索を進めていた。
魔王城というわりには目ぼしいものはそんなになく、基本的にはただの空き家のようなものである。
拾っておきたいようなアイテムの一つや二つくらいあると思っていたのだが、それすらもない。
流石に【失伝秘具】の一つくらいは置いておいてくれても良かったものを……
ここに来た苦労に対する対価が無さすぎじゃないか?
「一応、ここにはウインドウ画面のワープ欄を選択すると直接ワープしてこれるようになったみたいですねぇぇ!
ボトムダウンオンラインでワープ出来るのは限られた場面、限られた存在、限られた場所しかないのでその点ではラッキーかもしれませんよぉぉ!」
ん?
そうなのか?
俺は【キズマイナ】に促されてウインドウ画面を確認してみたが、確かに言われたようにワープ欄というものが追加されていた。
これまで無かった項目なのでありがたいが……
というか別案件で【短弓射手】が過去に達成した【プレイヤーがウインドウに新機能を追加する】という実績照会項目はここに到達することでも成し遂げられたってことだよな。
本当に今更の気付きだが……
ただ、これは全プレイヤー対象じゃないだろうし俺と【キズマイナ】への特権みたいなものだろうな。
これを活かす方法は今すぐには思いつかないが、無いよりは使えた方がいいものではある。
とりあえずはこれを収穫として自己満足しておくしかないだろう!
最低限【山伏権現】の依頼も達成できたし、文句がつけられなくなったのは安心材料になる。
「あっ、【包丁戦士】さんがログアウトしてもあてぃしはしばらくここで探索してみますねぇぇ!
同族たちの痕跡が辿れるかもしれない貴重な機会ですからねぇぇ!」
あぁ、思う存分調べてくれ。
それで有用な情報が見つかったら俺にも教えてくれよな!
……、……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】