1831話 貫通と反射
「小魚の矢は鬱陶しいよ~!
耐えるだけなら結構長く出来そうだけど、それだと反撃できないもん……」
【マキ】は【師匠】による小魚の水矢による攻撃を今もなお受け続けている中で次の対策を考えているようだ。
正直ここで俺が飛び出してもいいんだが、その場合だと【マキ】を助けるだけで【師匠】を仕留めるような一撃は放てないだろう。
せっかく気づかれていないのなら【マキ】が絶体絶命の危機に陥るか、【マキ】とのタッグでの勝算が生まれるか、【師匠】が致命的な隙を見せたと俺が判断したタイミングがいい。
それに、【マキ】が一人で戦うことで成長を見込めるかもしれない。
俺がいないという前提なので、大幅に格上の【師匠】と戦うことで一皮剥けるのを期待する側面もあるぞ!
「それだったら、このままの状況でも攻撃出来る方法で【師匠】にダメージを与えようかな~!
スキル発動!【潜蛇影手】~!」
【マキ】は影蛇を生み出し、それを地面に這わせながら【師匠】へと差し向けていった。
【マキ】の右手と連動させて動かしているようなので、操作難易度が低いわりに自由度の高いスキルだな……
「尖兵を差し向けてきたというわけだ。
だが、これで儂に傷をつけられると思うてはないだろうな?
その根拠のない自信を完膚なきままに叩き直しておこう、それが先達の役目であろうからな。
釣竿一刀流【憂鬱四ノ型ー憂イノ地震】!」
【釣竿剣士】の師匠の放った釣竿一刀流【憂鬱四ノ型ー憂イノ地震】は、手に持った釣竿をただ地面に突き刺しただけの技だった。
それ以外に何かやっていた様子はない。
しかし、俺と【マキ】がこうやって這いつくばらされているのは、この一帯に大規模の地震が発生したからだ。
少し離れたところにいるはずの俺まで巻き込んで攻撃をしてくるとは本当に天変地異だよな!?
そして、影響があったのはプレイヤーたちだけではない。
【マキ】が【師匠】へと差し向けていたはずの【潜蛇影手】の影蛇も地震の余波を受けて消滅してしまっていたのだ!
そういえば地面に干渉する攻撃で過去に何度か防がれていたな……?
だからこそ、地面を直接揺らす釣竿一刀流【憂鬱四ノ型ー憂イノ地震】は効果的に【マキ】の攻撃を防いだんだろうな!
「これじゃ、【スネークスタン】が使えないよ~!?」
「……ふむ。
……なるほど?
何者かが儂の妨害をしておるのか……?
普段より力が出ぬ。
それはそれとして、やはり儂に届かなんだな。
釣竿一刀流【憂鬱四ノ型ー憂イノ地震】であればその遅延空間の影響を受けず攻撃出来るのだ。
つまり、それでは不十分ということだ」
そう、俺は【槌鍛冶士】に素材を渡して作ってもらったability【現界超技術】の威力減割合をさらに増やすというトンデモないアイテムを釣竿一刀流【憂鬱四ノ型ー憂イノ地震】の発動モーションの直前に使っておいたのだ!
さっき読んだ本で効果範囲や有効範囲がある程度分かったのがでかいぞ!
だからこそ間近にいた【マキ】が潰れずに済んだというわけだ。
まぁ、消費アイテムなのでここからしばらく時間が経過したら【師匠】は再び全力に戻ってしまうわけなんだけど、とりあえずは【マキ】がそこそこタイマンで頑張れる程度にはなっただろう。
一個しかないし、【師匠】も勘づいているみたいだから俺もここからは下手にサポート出来ないぞ!
そして、【師匠】は【マキ】の攻撃と目論見が外れたことを咎めているようだ。
幼女にそれは厳しいのでは?
「……でも、これで小魚たちが止まってくれたよね~!
これだったらどうかな~
怠惰スキル発動!【怠惰巻拉】~!」
【マキ】が新たに発動させたスキルは俺の聞き覚えがない大罪スキル【怠惰巻拉】だった。
そのスキルが発動されると地面に釣竿を突き立てていた【師匠】の身体がよろめきはじめた。
……っ!?
【師匠】があんなによろめく姿なんて中々お目にかかれなかったぞ!?
【マキ】はいったい何をしたというのだろうか?
「これは……儂の攻撃を眠気として変換して反射してきたのだな?
実に珍妙な技だが、それはお前さんにも降りかかっているようだ」
そう、【マキ】も同じように地面に這いつくばったまま眠りに落ちようとしていた。
【師匠】は持ち前の精神力で気合いで耐えているようだが、【マキ】は逆に眠りに対して激弱だからな……
自分の攻撃で一番弱い相手が自分自身とは皮肉なスキルだ!
でも、まぁ【マキ】にとってはそこまで重要な点じゃないんだろうな。
実際気にする必要もないだろうし、気にしなくてもいいだけの力もあるからな。
さて、ここからの展開は中々『面白い』ことになりそうだぞ!
どうなることやら……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】