1830話 小魚ホイホイ
「いくよ~!
大罪スキル発動!【怠惰蛇円】~!」
まず【マキ】はドーム状に広がるオーラを周囲に張り巡らせていった。
あれは……たしか周囲の人の動きやスキルなどをまとめて超遅くするものだったな。
「さっきまでは【ヲ神死弖煌邪】ちゃんが近くにいたから巻き込まないように使わなかったんだけど、今は味方がうちだけになっちゃったからね~!
遠慮なく使えるよ~」
そういうことか。
味方まで遅くしてしまったら致命的な隙を作ってしまうことにもなり得るからな……
俺や他の味方がいる時にはお目にかかれなかった理由もよーく分かった。
というか【マキ】が怠惰スキルを使っているのはあんまり見たことないな。
【『sin』禁忌大罪を司る悪魔】の方が【マキ】よりも色々な怠惰スキルを使っていたのを見たことがあるくらいだ。
【マキ】と怠惰の大罪自体の相性はそこまで悪くなさそうなんだが、その力の行使をするタイミングに恵まれていないんだろう。
【マキ】のジョブは【パラディン】で、基本的に味方を守るためのものだ。
効果としては味方を守る行動をする度に防御力が上がるというものだったはず。
それと、味方を巻き込んで大規模デバフを付与するこの【怠惰蛇円】というスキルは特に相性が悪いのだろうな。
「それで儂の弱体化を狙いに来たということか。
力の差を弁えたいい選択だが……
要は、遅くとも躱せないようにしてしまえばいいのであろう?
釣竿一刀流【雨乞】!」
【師匠】は再び釣竿を弓のように構えると、そこに水の元素爆発を起こして水矢を生成したようだ。
その水矢は【師匠】の手元で姿を変えていき、小魚の集合体のようになっていた。
あれははじめてみる釣竿一刀流【雨乞】の矢だな?
これまで見たことがあるのはウナギやその他魚に似たそこそこ長めのサイズ感の魚か、もっと大きいサメサイズの魚の水矢だけだった。
小魚の密集形態はどんな力を持つんだろうか……?
「そんなに小さい魚なんてうちまで届かないよ~!
あれれ、【師匠】もスタミナ切れなのかな~?」
俺相手にはあまり出してこないが、こういう時に謎に煽るのはメスガキ感あるよな……
【牛乳パフェ】や【ギアフリィ】相手にも似たような振る舞いをしているんだろうな。
俺は屈服させたからか、懐かれたからかここまで露骨なメスガキっぷりを披露されることは無くなったけど。
「威勢がいいのは結構なのだが、そのような余裕を見せていられるのも今のうちだ。
放て!」
【師匠】から放たれた水矢は一度上空へ放たれると弧を描いて【マキ】へと襲いかかっていった!
ただ、密集していたはずの小魚たちは分散していきまるで弾幕のように広がって【マキ】へと襲いかかっている。
散弾ってやつか!
「わわっ、一気にいっぱい来たよ~!?
でも、この【怠惰蛇円】の中なら……」
【マキ】の自信を裏づけるように、小魚たちは【マキ】を中心に広がるドームへ突入すると急激に速度を落としていき超低速で空中を進んでいた。
時間停止というほどではないが、歩いて追い抜けるくらいには遅めのスピード感だ。
これくらい遅くなってくれていれば不意討ち相手だろうが、超スピードの攻撃だろうが対応するのも容易いはずだな。
だが、歴戦の実力者であり、生産的人間を自称する【師匠】がこれを予想していなかったはずがない。
これに類する異能力者とも戦ったことがあるようだし。
「あれ~っ!?
周りが全部小魚に囲まれちゃったよ~!?
どこにも逃げ場が無くなっちゃった~!」
【マキ】の言うように【師匠】は速度が下げられることを織り込み済みで、はじめから逃げ場を奪う前提の広範囲弾幕を放ったというわけだ。
うーん、これは上手すぎる!
ぶっちゃけその攻略方法は考えてなかったし、これを即座に実行できる経験則に基づいた行動思考は中々真似できないだろうな……
「痛~い!
でも、一発一発はそんなに威力がないから当たっても死に戻りはしなかったよ~!
これならまだまだ戦えるね~!」
やはり威力を分散させていたこともあり、【マキ】の巨大蛇蛇腹剣による防御を潜り抜けた攻撃だけでは致命傷にはならなかったようだ。
あの蛇腹剣を上に構えておくだけでも半分くらいはガード出来ていたからな……
やはり、大きいのは正義ということなのだろう。
……胸の話じゃないぞ!
断崖絶壁で悪かったなぁ!
いや、誰に怒っているんですか……?
全くこれだから劣化天子は……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】