1828話 選んだ本
【師匠】の屋敷と思われる場所で【師匠】攻略に繋がりそうなヒントを引き続き調査しているが、弟子たちに関するデータは多く集まったものの肝心の【師匠】本人に関するものはあまり見つからなかった。
本当に自分自身のことにはあまり頓着しないやつなんだな。
強い相手を求め続けるほど現状に対して【憂鬱】を感じているからこそ、自分に対して省みることはせず他人への興味ばかりになってしまうんだろう。
これが弱点……?
いや、確かに弱点になり得るかもしれないがこれだけで倒せるほど【師匠】は甘くない。
過去にはここを突いて倒そうとしたやつもいたはずだ。
それはここを調べなくても【師匠】の様子を見てたら推測できる範囲だし、察した連中がそれを利用しようとした可能性は高いからな。
仕方ないので弟子たちのデータでももう少し見てみるか……
【釣竿剣士】のデータのある書類には数枚の紙しか綴じられておらず、こちらにファイリングされている弟子たちは【師匠】の釣竿一刀流を直に教えてもらっているやつらだろうな。
【釣竿剣士】の異能力である【具現化】を筆頭に、【事象変動】【粗威免捕】……みたいな、いかにも異能力としての格が高そうな使い手たちばかりだ。
書類に『済』と判子が押されているものもあるので、ある程度技術を修得し終えた者もそれなりにいるようだな。
【釣竿剣士】はまだ『済』という判子が押されていないのであれでも修得していないのか……
それか逆に、選んだ中でも見込みが無さそうだったやつを『済』にしている可能性はあるか。
指導継続中だったら【師匠】目線でまだ教える価値があるという認識かもしれない。
そしてもう一つのファイルには溢れんばかりの書類が綴じられていた。
こっちは軽く各々の能力の使い方をレクチャーしただけのやつらだろう。
【釣竿剣士】がそういうやつが大半って言ってたからな。
こうやって見ると、【師匠】は後進の育成をしているが本当の目的はそこじゃないように思える。
集まっているデータからして、自分の技能を全て修得出来るための異能力を持っていてさらにはそれを十全に扱えるためのポテンシャルがあるかを貪欲に調べているのだろう。
だからこそ、隠居してもなお多くの人数を見ているし自分の技術を惜しげもなく教えるのだろう。
その目的はやはり自分と張り合えるような相手がいないという【憂鬱】な気分を晴らすためだろうな。
強すぎるが故の弊害だろう。
まぁ、このリストを見る限りは真の弟子に相当するのはやはり【釣竿剣士】だけっぽそうだけど。
俺の言葉を聞いた他の候補者は怒るだろうが、多少の贔屓目はあるだろうけど【師匠】のデータがその口を塞いでくれるはずだ。
強さだけとか、釣竿一刀流の習熟度だけだと【釣竿剣士】を上回る弟子もいるが両立していて、かつ【師匠】を越しそうな成長率の高さが異常なほど高いからな。
実際、俺の助けがあったとはいえ【釣竿剣士】は一度ボトムダウンオンライン内で【師匠】を倒せている。
それが【師匠】のデータの裏づけになるのだ。
まぁ、データ分析はこれくらいにしておこう。
俺の専門でもないし、これ以上の深掘りは出来ないだろうしな。
そして次に目には入ったのは古文書のようなものだ。
『異能元素操作秘伝書』
『時空間超越釣法』
『拡大解釈論』
『伝達促進媒介物のススメ』
『天地鳴動の力』
……他にも色々とあるが全部読んでいるほどの時間の余裕はなさそうだ。
【検証班長】なら速読術で読破しつつ、何かしらのヒントを手に入れられるんだろうが俺には無理だ。
せめて一冊だけだも読みたいがどれにしようか……
とりあえず『異能元素操作秘伝書』でも読んでみるか……
ふーん、なるほどな?
概要だけは何とか分かった。
本当は【検証班長】に読ませてやりたかった。
あいつに読ませてたらこの辺ひっくるめてめちゃくちゃ有用な情報が集まっていただろうに……
あとは、この情報をどう活かすか考えないとな?
それは劣化天子の腕の見せどころです。
精々頑張りなさい。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】