1821話 それを捨てるなんてとんでもない!
【夢魔たこす】が深淵種族を爆発させる力をミックススキルの【アンカー名案】で手に入れたので身構えていたが……
特に爆発しないな?
「おりょ?
爆発させるのに条件があるみたいなのだ……
自由に爆発出来たら楽勝だったのに、残念なのだ!」
【夢魔たこす】も俺と同じように考えていたようだ。
使った本人が驚いていたりするのはおかしな話かと思うかもしれないが、今回の場合は仕方ない。
何故なら【夢魔たこす】のこのスキルは効果がランダムだからだ。
使う度に効果が違うからこそ、都度手探りになってしまうのだろう。
これを使いこなすには相当頭が柔らかくないといけないか、感覚で使うかのどっちかになる。
【夢魔たこす】はどちらかといえば感覚派だろうが……それでもMVPプレイヤーなだけあって頭の柔らかさも充分にある。
だからこそ、その安価スキルを戦いの中で使っても勝ててきたわけだ。
「というわけで、ドリーマたこすちゃんの突撃なのだ!
スキル発動!【スマッシュ】なのだ!」
【夢魔たこす】はお得意のカタカナスキル……【スマッシュ】の力をアンカーに宿らせて俺へ殴りかかってきた。
あれに直撃すると俺が吹き飛ばされてしまうっ!
【WARNING!】
【活動可能エリアが縮小されます】
【活動不可能エリアが5分間点滅します】
【活動不可能エリアは5分後赤く染まります】
【赤く染まった活動不可能エリアにいるプレイヤーはHPを失います】
しかもこのタイミングでエリア縮小の通知かよ!
逃げなければっ!
「逃がさないのだよ!
【色欲剣ティル】剣現なのだ!」
俺が逃げようと水中から逃れようとしていた最中、【夢魔たこす】は唐突に空いている蛸足に凄まじい力を秘めた剣を呼び出した。
歪んだ劣情を感じる禍々しいもので、無邪気な【夢魔たこす】が持つにはとてもアンバランスに思えてくる。
……これは、【『sin』禁忌大罪を司る悪魔】を討伐した時に手に入れていたやつだな!?
俺も【正義剣ティル】という世界剣種を同じタイミングで手に入れていたが、正義剣と色欲剣で同じような名前だったとはな。
もしかすると大罪剣シリーズは全部『ティル』なのかもしれない。
まぁ、残りは全て聖剣次元の【ランゼルート】が持っているからあいつと戦わないことには真実が分からないけどな!
「これで引き留めるのだよ!
スキル発動!【色欲罪剣】!」
【夢魔たこす】がスキル【色欲罪剣】を発動させると、そのまま【色欲剣ティル】を湖底に向けて投げ捨てていった。
「ええっ、せっかく呼び出した剣を捨てちゃうんですか!?
いや~、向こうは変なことしてきてますね~」
ボマードちゃんは呑気にそんなことを言っているが、【夢魔たこす】は意味不明なことをしてきていても無意味なことはしてこないやつだ。
あれにもきっと何かあるぞっ!?
ボマードちゃんは地上へ逃げておけ!
とりあえず俺が食い止められるだけ止めてやる!
そうしてボマードちゃんを逃がした直後、湖底の【色欲剣ティル】から桃色の竜巻が生み出され、俺と【夢魔たこす】を囲い込んできた。
……っ?
これは攻撃じゃないのか?
拘束技みたいだが……
「多分、本当は攻撃なのだ!
でもたこすちゃんには上手く使えないからこうやって投げ捨てて使ってるのだよ!」
あぁ、手に負えないから効果の一部だけ利用するために投げ捨てていたのか。
本当は竜巻で俺だけを巻き込んでダメージを与えられるんだろうが、あくまでもこの制御出来ない竜巻を俺を逃がさないための囲いとして使ってきたわけだ。
俺好みの使い方だな!
「さあ、このままたこすちゃんのアンカーも食らうのだ!」
そうして逃げ場を失った俺は【夢魔たこす】のアンカーの攻撃を受けようとしていたが……
「むむっ、たこすちゃんから奪った【水流万花】が邪魔してきたのだ!
せっかくのチャンスだったのに残念なのだ……」
【夢魔たこす】のアンカーはギリギリのところで割り込んできてくれた水の花弁が防いでくれたようだ。
だが、あの一撃だけで複数枚に増えていたはずの水の花弁が全て吹き飛ばされてしまったのでノーガード状態に戻ってしまった。
さっきの無防備な状態で攻撃を受けるのを避けられたのは良かったが、せっかく奪った守りが一発でパーになるとはな……
逆にいえば、直撃していたらやばかったという証明にはなったか。
「……今の威力、少しだけど?
うーん、もしかするとそうかもしれないのだ!
わかったのだ!」
何が分かったというのだろうか。
向こうが笑顔になったところを見ると俺に有利に働くようなものではなさそうだが……
参ったな……
あんな世界剣種の使い方は冒涜的ですよ!
礎となるはずが、まるでゴミのように捨てられるなどあってはいけないのですよ……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】