1815話 失踪と疾走
さて、草原を突っ切るようにして進みはじめたわけだが……
どうも途中から気配を感じるようになってきた。
姿は見えないが、俺たちの動向を探っているような感じだ。
「相変わらず【包丁戦士】さんのセンサーじみた気配察知の精度は凄いですね……」
そういう【釣竿剣士】が背後から現れる時は全く察知出来ないんだけどな。
気配が自然と一体化し過ぎて俺では感じ取れないくらい周囲と馴染んでいるって相当異質だぞ?
「当然ですよ、生産プレイヤーなら!
素材と自分を一体化する感覚になれてこそ、一流の生産プレイヤーですからね!」
そういう理屈なのか……???
多分違う気もするが、本人がとりあえず言ってるから極意のうちの一つなんだろうが釈然としないな……
「それはそうと【包丁戦士】さんが感じた気配は敵なんですか?
いや~、味方だと嬉しいですよ~!」
それはまだ分からないな。
味方なら俺たちがつけられているかどうかを確認している最中だろうし、敵ならいつ俺たちを襲おうか考えている最中……といったところか?
距離も遠めだし、動向もまだ読めないのでどちらともとれる状況というわけだ。
「油断ならない状況ということですね。
とはいえ、進まないことには何も始まらないのでこのまま進みますか?」
あぁ、そうだな。
敵だとしたら誘き寄せられるし、味方だとしたら警戒していて止まっているだけ時間の無駄になってしまうからな。
俺たちには進むという選択肢しかないだろう。
……そうして、気配を感じたもののこれまでと変わらず進んでいく俺たち。
向こう側から動きが無いのには違和感があるんだが……
そう思っていたところで俺の隣にいた【釣竿剣士】の足元からカチッという音が鳴った。
「これは罠ですか!?」
いや、物理的なトラップなら俺がある程度見つけたはずだ。
だが、これは全く気がつかなかった。
ということは、スキルによるものか異能力によって仕掛けられた魔術的なものだろう。
「あわわわわ……
いや~、【釣竿剣士】さんの身体が光輝いてますよ~!?
【包丁戦士】さんっ、何が起こるんですか!?」
いや、俺に聞くな!
だが、輝いているといっても粒子が流れているわけじゃないから死に戻りするわけじゃないんだろうが……
すると次の瞬間には【釣竿剣士】の姿が消えていた。
「えぇっ!?
いや~、【釣竿剣士】さんがいなくなっちゃいましたよ!?
本当に死に戻りしたわけじゃないんですか?」
ボマードちゃんが俺に疑問をぶつけてきたが、正直俺も自信が無くなってきたぞ……
何が起きたのか全く分からないからな!
今のトラップで【釣竿剣士】が消滅させられたと言われたら否定も出来ないし。
「これは困っちゃいましたよ!?
いや~、包丁次元はあと私と【包丁戦士】さんの二人になっちゃいました!」
まあ、ここはポジティブに考えよう。
【釣竿剣士】がいなくなったということは俺とボマードちゃんがそれぞれ早く動けるようになったということだ。
これまでは【釣竿剣士】を運ぶために肩を組んで三人四脚してたから動きが遅くなっていたからな。
一気に向こう側……草原の先まで駆け抜けるぞ!
向こうはまた木々があるから障害物が増えるので戦いになったとすれば、この草原で戦うよりも俺は有利に立ち回れる。
「了解しました!
いや~、一気に走り抜けますよ~!」
というわけで俺とボマードちゃんは一直線に走り抜けることにした。
【釣竿剣士】が引っ掛かったトラップが気になるところだが、俺が判別できなかった以上警戒して進んだところで引っ掛かってしまうからな!
それなら無視して強行突破だ!
どうせわからん!
「ほ、【包丁戦士】さん……待ってください~!
いや~、既に置いてかれてますよ~!?」
ボマードちゃんは走りはじめてすぐに俺に置いてかれそうになっていた。
これでも一応加減して走ってたんだが、ボマードちゃんのデバフボディ相手だとそれでも速すぎたようだ。
流石にボマードちゃんを置いていくわけにもいかないのだ。
こいつを失ったらそれこそ俺は孤立無援だからな!
ボマードちゃんのデバフとバフには期待しているから、その真価を発揮する前に落ちられてしまったら流石に俺の過失になってしまう。
せめて【師匠】か【夢魔たこす】のどちらかと対峙するときまでには生き延びていて欲しいものだが……
戦わなければ生き残れませんよ。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】